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吉原の人間や父上から逃げ出し、杵築で匿ってもらってから数週間が経った。
どうやら父上が私を探す声は、杵築の方まで広がっているらしい。そのため、うらたさんたちや、その世話人以外の前に顔を出すことが許されず城の外へ出ることがない。
暇を持て余してる私に、ときどき坂田さんが「花札しようや!」と48枚の美しい札を持ってきてくれることがあるけれど。坂田さん曰く、自分が唯一できる遊戯らしい。
今日もうらたさんたちとの殺陣稽古を終えた坂田さんが来て下さり、ふたりでその札を並べているところだった。
「今日の稽古のときさ、燕みたいな鳥が来てそれに興味津々なってたらセンラに負けてん」
「そう、なんですか」
"センラ"というワードどうしても反応してしまう。
あれから普通に接してはいるものの……意識してしまっているのは私だけなのかもしれないが。
「なぁなぁ、A。俺一個聞きたいことあるねん」
「なんですか?」
上目遣いでそう尋ねてくる坂田さんは、まるで柴犬。
「Aの本名聞いてもいい?」
「Aの口から聞いたことないから」と坂田さんはこ首を傾げるようにしてこちらを見る。……その姿からは、あの日…初めて坂田さんと会った時の去り際に見せた妖艶な笑みは想像がつかない。
「栗花落Aっていいます」
「つゆり……?あっ!」
「え?」
「もしかして!」
突然なにか思い出したような声に、私は少し混乱。栗花落という苗字に聞き覚えでも……?
そう聞き返そうとした時、ガラリと襖が開き、稽古の途中だったのか着物の袖を縛る
「坂田っ!!」
「どうしたん?うらさん。そんなに慌てて」
「栗花落家が
坂田さんは、表情を固くして私を見る。
私もその事実に驚きを隠せず、目をぱちぱちさせながらうらたさんを見た。その表情を見る限り、冗談だとは思えない。
「Aって、香流の……」
「どういうことですか…」
私が最後に栗花落家にいたのはまだまだ貧しかったあの時。なのに、杵築などに宣戦布告など…
うらたさんは、落ち着かせるようにすぅ、と息を吸ってこう言った。
「香流が、俺らが全国を統一するために倒さなければならない最後の國だ。西は香流、東は杵築。これを統一するためには戦うほか術はない」
全身の力が抜け、手に握られていた花札がはらりと落ちた。
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透(プロフ) - 牡丹一華。@坂田家さん» はじめまして。ありがとうございます…!そのお言葉が一番の褒め言葉です( ; ; )ご期待に添えるよう執筆頑張りますね◎ぜひこれからも読んでくださると嬉しいです!よろしくお願い致します (2020年1月11日 8時) (レス) id: b3a866b10f (このIDを非表示/違反報告)
牡丹一華。@坂田家 - 夜分遅くに失礼します。作品を読ませていただきました。この作品のページが進めば進むほどのめり込みました。続編も読ませていただきますね。 (2020年1月11日 4時) (レス) id: ca03128f9d (このIDを非表示/違反報告)
透(プロフ) - 舶(ハク)@月ノ山天文部さん» ありがとうございます!!書き方いろいろ工夫しながら書いてるので褒めてもらえてめちゃくちゃ嬉しいです(///)更新頑張りますね!これからもよろしくお願い致します!! (2019年5月16日 23時) (レス) id: b3a866b10f (このIDを非表示/違反報告)
舶(ハク)@月ノ山天文部(プロフ) - 誤字すみません……すごきではなくすごくです…… (2019年5月15日 1時) (レス) id: 7017cc79b6 (このIDを非表示/違反報告)
舶(ハク)@月ノ山天文部(プロフ) - お話すごく好きです!うらたさんかっこいい……更新楽しみに待っています、頑張ってください!あと書き方すごき上手くてとても読みやすいです(*´ω`*) (2019年5月15日 1時) (レス) id: 7017cc79b6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:透 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/8ef4f72c271/
作成日時:2019年4月27日 0時