(柒)嚆矢濫觴 ページ31
「久々に外に出た気がする」
そう、月夜に照らされながら微笑むAを夜風が優しく包む。
馬の手綱を引く俺の後ろに横乗りで体を預けるその小さな体から香る甘い匂いが鼻をくすぐった。
人通りの少ない夜なら少しくらい外へ出ても気づかれないのではと思い、ずっと城の中にいることしか出来ないAを誘い出し馬に股がったのはついさっきの話。
俺の背にかかる彼女の華奢な重みを感じながら夜の城下町を進む。Aの肩にかかる昼とは違いこの夜の空に吸い込まれる様な美しい黒の羽織は…坂田のだろうか。
……なんか、むしゃくしゃするな。
「Aって、お兄さんおるんよな」
「はい、一個上なので…坂田さんたちと同い年の兄が、ひとり。」
「今は、香流の武士やってたりするん?」
「どうして、そんなことを聞くんですか?」
将軍同士は戦わない。
つまり、直接戦う将軍家一族はその息子や後継候補。俺ら4人はその立場に値する。
うらたさんの話を聞く限り、Aは父親には恐怖心を抱いているものの兄に対してはそのような思いを抱いてはいないようだった。
だからもしも。
Aの兄がそのまま香流の跡継ぎとして武士をしているのならば、俺らの敵は……彼女の兄。
この様子だと、まだAは香流の今の勢いを知らないらしい。まさか全国統一目前にあるとは考えられないだろう。
「いや、気になっただけだ」
「私も故郷のことは何も知らないんです。」
「そうか」
幼い頃から、4人の中で比較的勘が鋭かった。
センラみたいに頭の良さからくる勘の良さではなく、本当にただの直感だが。
いつかAが俺の前から消えてしまいそうだと、俺の勘が言う。
ふらりと現れた吉原の花魁で香流の姫。
出会ってまだ数週だが、知らぬ間に俺は彼女が消えることを拒んでしまうようになってしまっていた。
「ずっと気になっていたんですけど、」
「ん?」
ふと、小さな声が背中から聞こえた。
気がついたら、城下町ももう真ん中あたり。
静かな街に灯る帳が夜空に映える。
「皆さんって、杵築の将軍の息子で跡継ぎ候補ですよね」
「そうやけど」
「…皆さんって実の兄弟ですか?」
どうして彼女がこんなことを聞いたのかはわからない。頭に疑問を浮かべながらも「違うで」と答える。
「俺ら全員、父親は同じだが母親が違う。
……腹違いってやつ?」
顔も名も知らない自分の母を想像しながらAに伝えた。
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透(プロフ) - 牡丹一華。@坂田家さん» はじめまして。ありがとうございます…!そのお言葉が一番の褒め言葉です( ; ; )ご期待に添えるよう執筆頑張りますね◎ぜひこれからも読んでくださると嬉しいです!よろしくお願い致します (2020年1月11日 8時) (レス) id: b3a866b10f (このIDを非表示/違反報告)
牡丹一華。@坂田家 - 夜分遅くに失礼します。作品を読ませていただきました。この作品のページが進めば進むほどのめり込みました。続編も読ませていただきますね。 (2020年1月11日 4時) (レス) id: ca03128f9d (このIDを非表示/違反報告)
透(プロフ) - 舶(ハク)@月ノ山天文部さん» ありがとうございます!!書き方いろいろ工夫しながら書いてるので褒めてもらえてめちゃくちゃ嬉しいです(///)更新頑張りますね!これからもよろしくお願い致します!! (2019年5月16日 23時) (レス) id: b3a866b10f (このIDを非表示/違反報告)
舶(ハク)@月ノ山天文部(プロフ) - 誤字すみません……すごきではなくすごくです…… (2019年5月15日 1時) (レス) id: 7017cc79b6 (このIDを非表示/違反報告)
舶(ハク)@月ノ山天文部(プロフ) - お話すごく好きです!うらたさんかっこいい……更新楽しみに待っています、頑張ってください!あと書き方すごき上手くてとても読みやすいです(*´ω`*) (2019年5月15日 1時) (レス) id: 7017cc79b6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:透 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/8ef4f72c271/
作成日時:2019年4月27日 0時