* ページ26
この世かあの世か。
うっすらと目を開けてみる。
瞳に映ったのは、天井。
……天井?
「え……?」
重い体を起こし、辺りを見渡す。
(生きてる)
昨晩下駄を履かず足袋のまま走り続けて血だらけになっていた足には丁寧に包帯が巻かれており、私がいるのも昨晩身を委ねた芝生じゃなくて畳の上。
砂埃に汚れていた吉原で着せられたはずの袴の姿は見当たらず、代わりに私の身を包んでいたのは艶やかな生地の寝間着。
その上にかけられていた男性物の羽織は、お日様みたいなあの優しい香り。
「……!」
襖の奥から聞こえてきた物音にビクッと身体が反応する。自分の今の状況が飲み込めず、頭は真っ白。
吉原に連れ戻されたのか…それとも、誰かに誘拐された…とか。
そっと開いた襖の先にいたのは、
「あ、目覚めた?遊女サン」
初めて見る美しいお顔。
───────そして、牡丹の花。
「っ、誰」
「んー、あいつら呼んでくるからちょっと待っててな」
「そんなビビらんでも〜」と眉を下げて苦笑いする彼は、紫色の牡丹の花が刺繍された袴を見に纏っており、その腰に刀は見当たらない。
ポンポンと優しく頭を撫でられ胸のあたりに擽ったさを感じた。
ふと縁側を見ると、可愛らしい小さな鳥が庭に遊びに来ていた。
(ここはどこ……)
頭にクエスチョンマークを浮かべ、彼が戻ってくるのを待つ。すると、廊下の方からドタバタと騒がしい音が聞こえてきた。
その騒音に身を強ばらせる。
ここは、吉原ではない。
「時雨っ!!」
吉原に通っていた人間しか知らないはずのその名を呼んだのは、赤髪の……
「坂田、さん」
数ヶ月ぶりに見るあのひまわりみたいな笑顔。
私の上にかけられていた羽織のお日様のような優しい香りの持ち主。
息を切らした坂田さんの後ろから談笑しながらやって来たのは、
「うらたさん…!と、えっと」
「昨夜ぶりやね」
昨日私を助けて下さった彼。
数ヶ月ぶりのうらたさんとの再会に胸がドクンと高鳴った。それは、恋じゃなくて……喜び?
私の前に現れたその4人は、いつしかの昼見世で見かけたあの4人だった。あぁ、あの時からこうなる運命は定まっていたのだろうか。
「あの!昨日はありがとうございました」
「気にせんでいいよ」
昨日のあの笑顔は、私の強ばったままだった心に安らぎを与えた。
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透(プロフ) - 牡丹一華。@坂田家さん» はじめまして。ありがとうございます…!そのお言葉が一番の褒め言葉です( ; ; )ご期待に添えるよう執筆頑張りますね◎ぜひこれからも読んでくださると嬉しいです!よろしくお願い致します (2020年1月11日 8時) (レス) id: b3a866b10f (このIDを非表示/違反報告)
牡丹一華。@坂田家 - 夜分遅くに失礼します。作品を読ませていただきました。この作品のページが進めば進むほどのめり込みました。続編も読ませていただきますね。 (2020年1月11日 4時) (レス) id: ca03128f9d (このIDを非表示/違反報告)
透(プロフ) - 舶(ハク)@月ノ山天文部さん» ありがとうございます!!書き方いろいろ工夫しながら書いてるので褒めてもらえてめちゃくちゃ嬉しいです(///)更新頑張りますね!これからもよろしくお願い致します!! (2019年5月16日 23時) (レス) id: b3a866b10f (このIDを非表示/違反報告)
舶(ハク)@月ノ山天文部(プロフ) - 誤字すみません……すごきではなくすごくです…… (2019年5月15日 1時) (レス) id: 7017cc79b6 (このIDを非表示/違反報告)
舶(ハク)@月ノ山天文部(プロフ) - お話すごく好きです!うらたさんかっこいい……更新楽しみに待っています、頑張ってください!あと書き方すごき上手くてとても読みやすいです(*´ω`*) (2019年5月15日 1時) (レス) id: 7017cc79b6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:透 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/8ef4f72c271/
作成日時:2019年4月27日 0時