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ポツリポツリと橙色の灯に照らされ始めた遊郭内を回り廊下から見下ろす。
遊郭内が一番静まり返り、見張りの者が最も少なくなる丑の刻に
父上の元に戻るくらいなら、吉原で雇われている方が随分マシだった。吉原から逃げるのではない。父上から逃れるための計画だ。
袖から、一枚の紙を取り出してキュッと握る。
差出人────────うらた
うらたさんが出入り禁止令を出されてから一週間後に、気がついたら私の部屋にぽつんと置かれていた。
綺麗な字で、「必ず助ける」とだけ綴られていた。
ごめんなさい。
助けてもらう前に、命を落としてしまうかもしれません。
目を瞑って、心の中でそう呟いた。
そして人目を避けるように静かに遊女屋の階段を降りる。大きく跳ねる心臓を落ち着かせるように、胸元に手を当てて、外へ出た。
提灯を持ち、見張りに歩いている男の目を掻い潜るように遊女屋の裏へ回り、砂埃で汚れてしまった袴の裾を手で払う。
雨が降る前のような独特な生暖かい空気が私を包み、少しだけ顔を歪ませる。音で気づかれないよう、下駄を脱いで見つからないよう茂みの中に隠しておいた。
あと、55間ほど進んだところに、裏口がある。
この時間は、見張りの者は誰もいないことを、私は知っていた。
「……っ、」
足袋で地面を歩く痛みに耐えながら気づかれぬよう、ゆっくりと歩を進める。今朝こっそりと持ち出した裏口の鍵を握りしめる手に手汗が滲む。
カチャ、
鍵が開いた感覚をしっかりとこの手が捉えた。
キィ…と鳴る扉を開け、夜の繁華街を______
「時雨!!」
何も考えず、駆け出した。
足の痛みなどどうでもよかった。
鍵を投げ出し、うらたさんからの手紙をあたかも御守りに祈りを捧げるように握り締める。
吉原での私の仮の名を呼んだのは、顔を怒り一色に染めた見張り人だった。
その大きな声に気づいたほかの見張り人達が、刀片手に五名ほど一気に私へ向かって駆けてきた。
どうやら、私の命はここまでみたい。
涙で滲んでいた視界のせいで、目の前に迫る何かに気が付かず、思いっきりぶつかってしまい倒れ込んだ。
キュッと目を瞑って、再び鳥籠に戻される運命を待つしかできなかった。
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55間…現代にして約100m
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透(プロフ) - 牡丹一華。@坂田家さん» はじめまして。ありがとうございます…!そのお言葉が一番の褒め言葉です( ; ; )ご期待に添えるよう執筆頑張りますね◎ぜひこれからも読んでくださると嬉しいです!よろしくお願い致します (2020年1月11日 8時) (レス) id: b3a866b10f (このIDを非表示/違反報告)
牡丹一華。@坂田家 - 夜分遅くに失礼します。作品を読ませていただきました。この作品のページが進めば進むほどのめり込みました。続編も読ませていただきますね。 (2020年1月11日 4時) (レス) id: ca03128f9d (このIDを非表示/違反報告)
透(プロフ) - 舶(ハク)@月ノ山天文部さん» ありがとうございます!!書き方いろいろ工夫しながら書いてるので褒めてもらえてめちゃくちゃ嬉しいです(///)更新頑張りますね!これからもよろしくお願い致します!! (2019年5月16日 23時) (レス) id: b3a866b10f (このIDを非表示/違反報告)
舶(ハク)@月ノ山天文部(プロフ) - 誤字すみません……すごきではなくすごくです…… (2019年5月15日 1時) (レス) id: 7017cc79b6 (このIDを非表示/違反報告)
舶(ハク)@月ノ山天文部(プロフ) - お話すごく好きです!うらたさんかっこいい……更新楽しみに待っています、頑張ってください!あと書き方すごき上手くてとても読みやすいです(*´ω`*) (2019年5月15日 1時) (レス) id: 7017cc79b6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:透 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/8ef4f72c271/
作成日時:2019年4月27日 0時