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「無くなるのは…あっという間だね」
僕がポツリと呟くと君は答えもせず
ロープを乗り越えて入って行った
「えっ？ちょっと！入ったらまずいんじゃない？」
僕の声が聞こえないのか
君は奥へと歩を進める
辺りを伺いつつ 僕もロープを越えた
何もなくなってしまった平らな土地
この辺りが玄関かな？
じゃあこの辺は居間？
ここは確か縁側で…
こっちは幼馴染の部屋で…
残像を追いかけて記憶を辿ってみても
目の前に広がるのは殺風景な画
だけど…奥の方に静かに燈が灯っていた
モノクロの中で色を変えて
静かに浮かび上がっていたのは
鮮やかな紅色の花を湛えた百日紅
君はゆっくり近付いてそっと幹に触れる
「…これだけ…残ってたんだ…」
君の隣に立って 僕は百日紅を見上げた
闇色に紛れて咲く紅が風に攫われて散って行く
…そういえばこの光景…以前にも見た事が…
そうだ…君と初めて出会ったのも…
…この百日紅の木の下だったね…
あの日の事はもうずっと前の事なのに
…今でも鮮やかに蘇るんだ…
…だって僕…君を初めて見た時…
…百日紅の妖精さんだって思ったんだもん…
・
幼稚園から帰ったら向かうのは幼馴染の家
母さんに手を引かれて歩く道
徒歩5分程の道のりだけど
その頃は凄く遠く感じてた
通い慣れた風景に彩りを添えるのは
数々の庭木や花たち
特に僕は夏に咲く百日紅がお気に入りだった
白や淡いピンク 目の覚める様な紅色と
色とりどりの花を咲かせている百日紅
何故かそれを桜の花だと勘違いしていた僕
この辺りは庭木に百日紅を
植える家が多かったから
夏に咲く桜なんだって思っていた
その紅色の花の先に素敵な未来が
待っていると勝手にワクワクしていたんだ
やがて見えてくる大きなお屋敷
待ちきれなかったのか
幼馴染が門の前に出て手を振っている
さぁ大冒険の始まりはじまり
お喋りに夢中になっている
母さんたちを放っておいて
僕らの好奇心は本領発揮
蔵に入って武者鎧にびびったり
軒下に入り込んで泥だらけになったり
木になっている謎の実をこっそり食べたり
どんな有名人に会うよりも
大人気のテーマパークに行くよりも
最新鋭のゲーム機を体験するよりも
この庭で遊ぶのが僕らの 1番だった
「みんな〜おやつの時間よ！」
母屋からやがて聞こえる声
食いしん坊の幼馴染はもう駆け出している
僕も後を追おうとした…その時だった
吹き抜ける一陣の風
その先には百日紅が咲き誇ってた
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作者名：青山白樹
作成日時：2021年1月11日 10時
