検索窓
今日:1 hit、昨日:3 hit、合計:11,349 hit

(8) ページ8




まぁ…虫取りやザリガニ釣りの時しか

この辺来ないから僕が気付かなかっただけで

元から存在していたのかもしれない

あちこち忙しなくキョロキョロな僕に

君は笑いを堪えていた

やがて店内を満たす美味しそうな香り

「お待ちどうさま」と出されたのは

オーソドックスな醤油ラーメン

これが…『いつもの』?

店主のニヤリ顔に嫌な予感がする

…これって…食べても…大丈夫なんだよね…

君をちらりと見れば「いただきます」と

手を合わせてもう食べ始めてる

またお腹がグーッと鳴った

「あれ?食べないの?」

君が上目遣いで僕を見る

「食べねぇのかい?伸びちまうぞ」

店主まで洗い物の手を止めて僕を凝視する

そんなに見つめられたら食べづらいって!

僕は恐る恐る口に入れた

「ん!美味しい!」

「でしょ!」

作った訳でもないのにドヤ顔の君

店主が「おまけだ」と言って

僕らに餃子も付けてくれた

「初めて連れて来た友達だもんな。サービスしとかないと」

えっ?そうなの?

僕が君の初めての友達?

でも…僕が初めてでは…ないよね

あっ…ここに連れて来たのはって事?

そっか…僕が初めてなんだ

ちょっと優越感に浸る僕とは対称的に

君は顔を曇らせ眉間に皺が寄る

「…これは…餞別だから…」

餞別って…どういう意味?

『お別れ言いに来た』

じゃああれは…冗談じゃなくて…

『今までいろいろありがとう…さよなら…』

…やっぱり…本当だったの?

僕はチラッと君を見るけど

食べる事に集中しているのか

それとも何も話したくないのか

黙々とラーメンと餃子をやっつけてる

僕も何も聞けなくて

味のしなくなったそれらを

ただ惰性的に流し込む

…やっぱり君は…

…肝心な事は言わないんだね…



「毎度あり!」の言葉を背にして

僕らは店の外へ出た

瞬間に消える明かりと気配

振り返れば建物はあるのに廃墟と化してる

えっ?僕らが最後のお客様?

訳の解らない状況に首を傾げて

何度も振り返れば君は僕を見て静かに笑う

何かごにょごにょと独り言を

呟いていたけど僕には聞き取れない

そして君は真面目な表情に戻って行く

「お腹もいっぱいになった事だし…そろそろ帰ろうっか」

「何処に?」

「何処にって…家に決まってるだろ?これ以上はやっぱりまずいって…心配するよ?」

君の戸惑う声

僕の傍から離れて行きそうで

慌てて君の腕を掴んだ

「さっき餞別って言ってたよね?やっぱりただの家出じゃないの?」


(9)→←(7)



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.7/10 (20 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
30人がお気に入り
オリジナル作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:青山白樹
作成日時:2021年1月11日 10時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。