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「お腹空いてるんでしょ?帰らないと…」

僕が首を横に振ると

今度は盛大に鳴る腹の虫

君は僕の手を引いたまま

扉を開けて辺りを見回した

「よし 今のうち!早く!」

今度は僕が何処へ連れてかれる番なの?

君が僕の手をぎゅっと握り締めて

宵闇の中を駆け出した



夏の昼間の余韻がまだ残る

肩先を掠める生温い風

辺りはすっかり日が落ちて

畦道のあちこちから聞こえる蛙の合唱

君は鼻歌交じりで

街灯の少ない暗がりを歩いてく

あれ?君って…

こんなキャラクターだっけ?

落ち着いていて

斜に構えてそうに見えたけど

実は意外と陽気?

ってか本当に家出なの?

会った時は泣きそうだったのに

今はこの状況を楽しんでいるみたい

鼻歌も音符が明るく弾んでる様だ

それと反比例して僕は不安が増す

あんなにオバケで盛り上がっていたくせに

何でだろう…ちょっとこわい

いったい何処へ向かってるんだろう

さっき何も言わずに

君を学校へ連れて行ったから

その仕返しのつもりだったりして…

「ねぇ…何処行くの?この辺 田圃と畑しかないよ?」

「大丈夫大丈夫。もうちょっとだから頑張って!」

君はそう言って歩みを止めない

それにしても……お腹空いた

リュックの中には食べ物だって入ってる

家の戸棚に合ったお菓子

根刮ぎ全部持って来たんだもん

だからせめて腹拵えくらいしたいけど

言える感じでもなくて今に至る

やがて君の足が止まる

こんな所…あったっけ?

暗闇の中で一際明るい建物は

それ自体はかなりの年代物

最近出来たにしては古ぼけてる

入口に掛かる赤のれん

君は躊躇う事なく引き戸に手をかけた

「ちょっちょっと待って!入るの?大丈夫なの?」

「うん。ここ知り合いの店だから」

知り合いって…親戚って事?

君は僕に笑顔で頷いて勢いよく開けた

「いらっしゃい」

日焼けした肌に若干眠そうな男の人

君のおじさんかな?

「いつもの二つ」

「はいよ」

君は慣れた仕草で高めのスツールに座る

僕も慌ててそれに習って君の隣に座った

それより…『いつもの』って何なの?

メニューは どうやらないみたい

手持ち無沙汰で見渡す店内

年季の入ったカウンターやスツール

再放送でも見た事ないアニメキャラの置物

随分前の映画のポスター

それはわざと狙った様な雰囲気ではなく

そこだけ時が止まった感じだ

てか…こんな所 知ってるなんて

ちょっと渋過ぎない?

君…もしかして歳 誤魔化してる?


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作者名:青山白樹
作成日時:2021年1月11日 10時

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