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「何で君が泣きそうなの?」

君は僕の唇から目尻に指先を移動して

そっと触れて優しく拭い取る

照れ隠しに僕は明後日の方向に背ける

「君って そんな泣き虫だったっけ?」

「あんまり急だからびっくりして…目から汗が出たんだ」

使い古された言い訳に君は笑って

ポケットに手を入れて何か探っている

「きっとまたここに戻って来るよ。だからお願いがあるんだけど…」

「お願い?もしかして 遊びに来いとか?」

行きたいのは山々だけど

場所によっては学生には難しい

そんな僕の気持ちを知ってか知らずか

君は僕の掌に自分の掌を重ねた

君の温もりとは真逆の冷たい感触

驚いて手を引けば古ぼけた鍵が一つ

「…何これ…」

「ここの鍵」

「えっ?ここって扉あるの?」

「うん。普段は畳まれていて隅にしまわれてるんだ」

そう言って蛇腹折りの扉を広げて見せる

扉の片隅には申し訳程度の鍵穴

僕も近寄って差し込んで見れば

カチリと音がして鍵が閉まる

僕はもう一度同じ動作を繰り返して鍵を見つめた

蛇腹の扉を開けながら君が僕の隣に立つ

「だからこれ、預かってて」

僕の手の中にある鍵に

琥珀糖の袋を縛ってたリボンが結ばれる

「こうしたら なくさない?」

鮮やかな赤い色が鍵の古さを際立たせる

この鍵を僕が持ってていいの?

だって そもそもこれは…学校のだし…

ついついまともな事を考えてしまうのは

元来、真面目なせいか

それとも存在の重みに戸惑っているのか

そんな僕に君は相変わらず優しく

切ない笑顔を見せて 鍵を強く掌に押し付ける

「出来ればこのまま……二人だけの秘密の場所にしたいじゃん」

「えっ でも…だけどさ」

「今迄だって誰も来なかったんだもん。だからきっと大丈夫」

君は軽くウィンクをすると扉を再び開けて

三角帽を脱ぎ 丁寧なお辞儀をする

「では団長さん、ここからが本日のメインイベント!」

「メインイベント?」

「うん。夜のサーカスの見せ所。一番の山場だよ。だから…素敵な挨拶、お願いします」

夜のサーカスの最高潮?

もう一本、映像を用意しているのかな?

何でこんな事をしているんだろうという疑問と

次はどんな物が見られるんだろうという期待

入り混じる気持ちに咳払いをして

僕は口上を述べる

「お名残惜しゅうございますが、これより最後の演目でございます。どうぞ最後までご鑑賞下さい」

シルクハットを脱いで一礼して被り直せば

君は僕を見ながら胸元で小さく手を振った


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青山白樹(プロフ) - だんぼさん» (;゚Д゚)何でその設定が解ったんですか?まさか女学生がだんぼさんモチーフだって事がバレてました?笑雨の日のお迎えって面倒臭いけど2人の距離が縮まる気がしますよね。雨に濡れると甘さを増す香りの中いつまでも優しく甘い2人でいて欲しいと願いを込めました。 (2019年6月29日 18時) (レス) id: dc26697653 (このIDを非表示/違反報告)
だんぼ(プロフ) - 青っち〜天邪鬼で意地っ張りで、でもすごく分かりやすいあの子♪ 蒸し蒸しとした季節ですが爽やかなお話の贈り物 どうもありがとう♪ただひとつだけ心配なのは傘を貰った女子が腐ってたら…(笑)ガン見され尾行されてるかも〜2人ともッ背後に注意よ〜(笑) (2019年6月29日 13時) (レス) id: b513b55378 (このIDを非表示/違反報告)
青山白樹(プロフ) - やまさん» やまさんこちらにも感想ありがとうございます。雨で諦めてたピンクムーンを早朝見つけて朱鷺色に染まり始める空の中の月がほんのり染まった様に見えたんです。ピンクと言っても実際の色とは関係ないのですが。こんな場面なら小さな秘密もきっと特別になりますよね。 (2019年5月22日 10時) (レス) id: dc26697653 (このIDを非表示/違反報告)
青山白樹(プロフ) - やまさん» 素敵な感想ありがとうございます。昔近所に古い喫茶店が有り覗いたら意外に混んでいる店内に驚いた事があります。やまさんの話を聞いて思い出して書いてみました。ソーダ水頼んでもアイスを乗っけるそんな優しいマスターと何かが始まる予感を感じて戴ければ幸いです笑 (2019年5月22日 10時) (レス) id: dc26697653 (このIDを非表示/違反報告)
やま(プロフ) - そして、一つ前のお話も大変遅ればせながら拝読させていただきました。まさに桜月夜の宵!!桜色に染まる月の光を浴びる睦じいお二人に、胸がきゅんとします♪ (2019年5月22日 1時) (レス) id: 0f4c7ca2f3 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:青山白樹
作成日時:2014年10月2日 12時

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