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ちょっと前までの僕は

所謂 隙の無い優等生と呼ばれ

常に衆人から注目を浴び一目置かれていた

別に馬鹿騒ぎして羽目を外したり

不良に憧れたりするわけじゃないけど

……たまには息抜きをしたい

そんな時にこの場所を教えてくれたのは

寮で同じ部屋の君だった

『誰にも秘密にするって約束してくれるなら 良い場所 教えるよ』

そう囁やいたのは君のくせに

何故か赤く染まる耳朶

それを見ながら僕の頬も熱くなる

それから僕と君は何もない退屈な放課後を

ここで過ごすのがお決まりになっていた

今日みたいにお互い読書したり

試験前の勉強で解らない部分を教え合ったり

みんなに内緒でおやつを食べたり

奥に仕舞われた壊れたピアノで連弾したり

本当にたわいのないお喋りをしたり

ふんわりして穏やかで

ちょっとだけ背徳感がある君との時間

二人だけの秘密の共有に僕は心踊っていた

だってさ 特別感があるだろ?

それがたとえ取るに足らない些細な冒険でも…

「あっ そうだ!」

僕は如何にも

今 思い付いた程で君に話しかけた

「今度 一緒にサーカス見に行かない?」

「サーカス?この街にも来るの?」

君は目を丸くしてワクワクを隠さない

以前 みんなと連れ立って街へ行った時

隣の街に来るサーカスのポスターを

じっと見つめていたから

きっと君は好きなんじゃないかって

……ずっと思っていたんだ

「うん。春に来るって街の掲示板に載っていたんだ。だから一緒に行こう!」

その言葉で君の顔はみるみる曇る

もしかして怖気付いている?

夜公演のサーカスを終幕まで見たら

寮の門限を破ってしまう

寮長は厳しくて融通がきかない奴だから

いろいろ気になるんだな?

「心配するなよ。偽装工作はみんなに頼めばいいんだし。みんなの時は僕らがやってるだろ?」

君はいつも通り頷くけど

黙ったまま 読んでない本に視線を落とす

雲行きが怪しい状況を何とかしようと

僕は根拠のない自信を力に変えて

君の説得を試みる

…だって…

みんなと見るのもきっと楽しいけれど

二人の秘密が増えた方が

気持ちが満たされる様な気がしたから…

「大丈夫だって。そんなに心配なら途中で帰って点呼に間に合う様にすればいいんだし」

戯けながらも勇気付ける様に

君の肩に僕の肩をぶつければ

本に落ちて弾ける雫

天井を見るけど雨の気配はなくて

もしやと慌てて君の顔を覗き込めば

ひとしずく、ふたしずく

瞳からころころ転がって本へ沈んで行った


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青山白樹(プロフ) - だんぼさん» (;゚Д゚)何でその設定が解ったんですか?まさか女学生がだんぼさんモチーフだって事がバレてました?笑雨の日のお迎えって面倒臭いけど2人の距離が縮まる気がしますよね。雨に濡れると甘さを増す香りの中いつまでも優しく甘い2人でいて欲しいと願いを込めました。 (2019年6月29日 18時) (レス) id: dc26697653 (このIDを非表示/違反報告)
だんぼ(プロフ) - 青っち〜天邪鬼で意地っ張りで、でもすごく分かりやすいあの子♪ 蒸し蒸しとした季節ですが爽やかなお話の贈り物 どうもありがとう♪ただひとつだけ心配なのは傘を貰った女子が腐ってたら…(笑)ガン見され尾行されてるかも〜2人ともッ背後に注意よ〜(笑) (2019年6月29日 13時) (レス) id: b513b55378 (このIDを非表示/違反報告)
青山白樹(プロフ) - やまさん» やまさんこちらにも感想ありがとうございます。雨で諦めてたピンクムーンを早朝見つけて朱鷺色に染まり始める空の中の月がほんのり染まった様に見えたんです。ピンクと言っても実際の色とは関係ないのですが。こんな場面なら小さな秘密もきっと特別になりますよね。 (2019年5月22日 10時) (レス) id: dc26697653 (このIDを非表示/違反報告)
青山白樹(プロフ) - やまさん» 素敵な感想ありがとうございます。昔近所に古い喫茶店が有り覗いたら意外に混んでいる店内に驚いた事があります。やまさんの話を聞いて思い出して書いてみました。ソーダ水頼んでもアイスを乗っけるそんな優しいマスターと何かが始まる予感を感じて戴ければ幸いです笑 (2019年5月22日 10時) (レス) id: dc26697653 (このIDを非表示/違反報告)
やま(プロフ) - そして、一つ前のお話も大変遅ればせながら拝読させていただきました。まさに桜月夜の宵!!桜色に染まる月の光を浴びる睦じいお二人に、胸がきゅんとします♪ (2019年5月22日 1時) (レス) id: 0f4c7ca2f3 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:青山白樹
作成日時:2014年10月2日 12時

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