Episode76 ページ39
「この時間に、手入れか？」
「ああ、ちょっとね」
「団長との勝負はどうだった」
サンダルフォンの言葉にAは手を止める。改めて手を眺めると、先ほどの痺れこそないが、感触は残る。
「…正直、驚いてるよ。あそこまで強いのか、って…基本的な能力は僕のが高いのに、まだあの感覚が忘れられないぐらいだ」
「なるほど」
Aの隣に腰かけたサンダルフォンは、自らの手を眺める。
「…俺は、君の強さが憧れだった。四大天司とも遅れをとらない力、その場その場の判断の早さ…何をとっても、俺では勝てないものばかりだ。だが、俺は俺だ。今ないものを嘆くのはやめた」
「ん…？」
「俺は俺らしく、この空を見守る。出来ないことは君達に頼る。だが、このままで甘んじるつもりはない。…と、これは天司長としても豊富だ」
「いいと思うよ、僕はそれについていく」
「…そうか」
サンダルフォンは、しばらく視線をさまよわせた後、息を吸う。
「A」
「なんだよ今度は」
「俺は、君がいてくれて感謝している。これは天司長ではない、俺自身の言葉だ。そして、俺の願いは…君と、二人でどこかで珈琲の研究をしたり、栽培したりしながら、店を開いたりすることだ」
「あ、あぁ…」
サンダルフォンの突然の発表にAはあいまいに返事をする。その様子にサンダルフォンは不機嫌そうに眉を寄せる。
「…俺は本気だぞ」
「この空気でいきなり本気で言われてもなぁ」
「なっ…」
自分の今までの言葉を思い返したサンダルフォンは、いかに自分が唐突に言い出したかを痛感する。
「お、俺は…」
「わかってる。…そこまで鈍くはないよ」
「…」
Aは無言でしばらく剣を眺めると、鞘に納める。
「僕自身の願いは、サンダルフォンと珈琲について語りながら、時々喧嘩もしたり、言い合ったりするけど、なんだかんだ一緒に店を持つこと。あとは、もっと強くなる…かな」
「…なんだ、それは」
「悪いか？純粋に強さを追い求めて見たくなった。今までは守らなきゃ、とか戦わなくちゃ、とか考えてたけど…もう、何も考えずに生きるよ。その方が楽しそうだ」
「ああ、そうだな」
「錬金術をやってみるのもいいかもな。新たな珈琲を考えるのも悪くない」
「…研究室の性、か？」
「…」
サンダルフォンの言葉にAの動きが止まる。
「そうかもしれない。僕はどうにも、探求するのが性に合ってるらしい」
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作者名：御煉 | 作成日時：2019年4月7日 14時
