Episode74 ページ37
Aはグランに向き合うと、目を見る。
「…本当に、いるんだな。善なる心の持ち主の人間ってのは」
懐かしそうに言うAの真意がわからず、首をかしげる。
「ルシフェル様は言ってた。人間は悪いものじゃないって。僕達天司は基本的に世界に尽くしてきた。もちろん、例外もあるけどね。人間はその短い命を卑屈にならず、善なる心を持ち続けることは不可能だ、と僕は思ってた」
Aは自らの腰にあるルシフェルの愛刀に手をかける。
「迷いのない、その瞳が…きっと、多くの人々を動かしてきたんだ。特異点ではなく、団長として」
「…僕はそこまで、すごくないよ。今でも迷うことはたくさんある。その度にに仲間に助けられてきた。僕がここまでこれたのは、仲間を信じてるからだよ。Aが、サンダルフォンやミカエルさん達、ルシフェル様を信じるように」
「…信じてる、か」
Aは剣にかけていた手で握りしめる。
「約束を、今ここで果たそう団長。その想い、僕が試してやる」
Aの言葉と同時に、先ほどと同じように景色が一変する。その空間は何もなく、ただ白い世界が広がる。
「…わかった」
グランも剣を抜くと、Aに対峙する。
「いくよ、A！」
「ああ、来い！」
グランは小さく息を吐き出すと、Aを攻める。グランの俊敏な剣をAは受け止め、流していく。徐々に早くなっていくグランの動きにAは思わず口角が上がる。
(…純粋な剣が、ここまで重いなんて)
いつまでも甘んじて受けるわけもなく、Aは反撃に転ずる。しかしグランはひるむことなく、攻め続ける。互いに剣を打ち合い、時間が流れる。その間にもグランの剣の速さは上がっていくのだった。
(確かに、血統だけではない強さ…覚悟、信頼、そして自信…どれも僕に足りないものか)
グランの剣から伝わる想いにAは今一度、剣を強く握る。
(…覚悟…僕は、この先どんなに辛い事があっても、守るべきものを守る。信頼…僕は、仲間を…自分自身を…この世界を信じる。そして…僕は、己の力を信じる！)
Aの目つきが変わったことを察するグラン。間をとり、Aの出方を窺う。Aは先ほどとは比べ物にならないほど俊敏な剣捌きを見せ、そして一撃一撃に自身や想いが乗せられる。その背に輝くのはカラでも虚無でもない、七色の六枚羽だった。
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作者名：御煉 | 作成日時：2019年4月7日 14時
