Episode63 ページ26
「…これがあの日、カナンで起きた事なのね」
「こんなもの、サンダルフォンに見せられると?…って、いいたいけど…本当はルシフェル様を奪ったのが僕だなんて思われたくないだけかもしれない」
頭から手を離したAは、ミカエルの目を見る。
「力だけを返せるなら、とっくにやってるよ。今の僕の中には天司の力が混在している。いずれその力は僕が暴走した時に世界の脅威になることもわかってる。四大天司の力を返したところで、僕はもうカラには戻れない。虚無をもち、ケイオスマターでさえ凌駕したこの力は、押さえつける要がいるんだ」
「…どうして、それを今まで言わなかった」
ミカエルの言葉に、Aは申し訳なさそうに首を振る。
「こんな世界が一大事な時に私情を挟めると?」
「貴様だけの問題ではなかろう!?」
「ミカちゃん、ここはお店の中って…」
「ぐぅ…すまぬ…」
落ち着きを取り戻したミカエルだったが、未だ若干の興奮がある。
「…私情、で済まないこともわかってた。信じていないわけじゃないって言っても意味がないことも。けど…これ以上の悲しみを誰かに渡して、どうしろと…?僕は誰かが悲しむのを見て、苦しみ続けろと…?」
「違うわ」
きっぱりと言い放つガブリエル。
「大きな悲しみは消えにくいけど、みんなで共有して、癒しあえば悲しみはいずれ教訓となる。みんなで共有すれば忘れることもない。私達にとってもルシフェル様は大切なの」
「…けど、サンダルフォンは…」
「俺が、そんなに頼りないか?」
「…!?」
「ちょっと、サンダルフォン!どうして出てきたんだ!」
店の個室から現れたサンダルフォンにハールートが慌てて止めに行く。その様子で全て聞かれていた事を察する。
「…頼りない、のは僕だ。だけど、もう…これ以上誰かの悲しむ顔は見たくない」
「なら、俺も言わせてもらうが、俺はこれ以上君の苦しむ顔は見たくないよ」
「…」
サンダルフォンの返しにAは頭を抱える。
「A、渡すんだ」
「…ッ」
「約束しただろう、共に生きると」
「…」
差し出された手は、Aの手をつかむ。その瞬間、サンダルフォンの中にAの天司長の力と記憶が流れ込む。
「…」
しばらく無言となったのち、サンダルフォンはゆっくりと言葉を発する。
「…あの日、君が俺を守っていなければ、俺はあそこで消滅していた。ありがとう」
「ッ…」
「ルシフェル様も、同じ気持ちだったのだろうな」
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作者名:御煉 | 作成日時:2019年4月7日 14時