Episode50 ページ13
空の世界が落ち着きを取り戻したころ、研究室のあった場所に人影があった。
「…」
花束を置き、２つ分の珈琲を置く。
「…ハハ…ハ…」
乾いた笑い声が響く。人気のないその場所は既に自然の侵食が始まっていた。
「…ここは、やっぱり二人にとっては苦痛なのかな。でも、僕にとって二人に出会えた事は幸せだった…この場所が」
虹色に輝く羽を飛ばないように供える。かつての面影のなくなったその場所は、時代の流れを映しているようだった。
「僕が…もう少し気づけてればって何度も思ったんだ…サンダルフォンの時も、アドバンの時も、ミザの時だって…何度も僕は友人を見捨ててきた。そんな僕が、今楽しく生きていいのかわからない…きっと、ミザは優しいから、そんなことないって言うんだろうけどさ。僕だけが…ずっと平穏なんて納得できなかった…」
心の中にあった思いが漏れ出ていく。くぐもっていた疑問があふれ出る。
「ミザが死んで、ルシフェル様が死んで、アドバンも消えて…不滅ってなんなんだって思った。やっぱり僕は、二人の事を都合よく記憶の中に留めてたんだ。だって確かに僕は、サンダルフォンがいなくなった時は二人の事を考えていなかったから…最低だ」
返事のない懺悔に虚しさのみ募る。風は冷たくAを突き刺していく。
「二人の存在が完全に消えたのはわかってるんだ。ルシフェル様みたいに、魂の終着点でもない…完全に消えたことは…待っててなんて言っちゃいけないことも…僕が気にしないように…ミザはそうやっていつも誰かを気にかけてた」
いつだって隣で笑いあった顔を思いだす。その顔はうっすらとかすんでいる。
「…だから、わかってた。ミザが最後に僕の記憶を操作して、忘れさせてたことも。そうやって甘えてきた僕が、天司長なんて考えちゃいけないことも。ずっと誰かに守られてきたことも忘れて…」
握る拳は痛みを訴える。一度息を吐くと、もう一度前を向く。
「これで泣き言をいうのは最後だ。僕はこれからを生きる為に前を向く。誰も忘れない…苦しい思い出になんてしない。笑いあった思い出と一緒に生きるよ。ルシフェル様とに会った魂の終着点で…僕はまだ死にたいと願ってたけど、決めた。二度と迷わない。やりきるまでは生きる」
地面に手を付けると、植物が光り輝く。色鮮やかな花を咲かせ、葉を茂らせる。それによって研究所の影は完全に消えるのだった。
「僕は…進むんだ」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 14人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：御煉 | 作成日時：2019年4月7日 14時
