あくまでも客室清掃員 (ページ9)

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危機ページ9

「これあなたのですか？」

私の目の前に差し出されたのは淡いピンクの桜柄のケースカバーのスマホ。見慣れすぎているそれは紛れもなく私のだ。

「え、そうです！なんで…」

どこかで落としていたのだろうか。全く覚えがなくて首を傾げながらスマホを受け取る。

「部屋の前に落ちてましたよ」

「ありがとうございます…」

掃除用具を運んでくる時にでもポケットから飛び出してしまったのか。うわ、今度から気を付けよう…。そう気を引き締めていると、目の前の彼の口から思いもよらぬ言葉が。

「ねえ、マネヒョンとどういう関係なの？」

「………は、」

一瞬にして思考が止まる。
何の脈絡もなく突然マネージャーさんとの間柄を聞かれ、そんな咄嗟に上手い嘘が言えるはずもなく、「マネヒョンとは…？」とそのまま返してしまった。

「僕たちのマネージャーだよ。回りくどいの面倒くさいから単刀直入に言うけど、さっき君のスマホ拾った時ちょうどマネヒョンから電話かかってきて。あ、大丈夫、電話には出てないよ。それでマネヒョンに女兄弟はいないし、彼女にしては年齢が離れてそうだし、と思って」

先程までの人当たりのよさそうな雰囲気は一切感じられず、淡々と喋り始めたジョシュアさん。最悪なタイミングで電話してきたマネージャーさんに苛立ちを覚えるがそれどころではない。彼は私に自分がアイドルとして認識されていて、私が会社の人間かはたまたマネージャーさんと繋がりのある一部のファンか、あたりを付けて聞いてきている。スマホを拾って電話の相手の名前を見ただけでここまで推測できる人に、下手に嘘をついてもすぐばれて墓穴を掘るだけだ。

こうなったら仕方ない、と諦めて最初の質問に答える。

「私の上司です」

私の言葉に少し驚いたような顔をした後、ふっと笑ったジョシュアさん。

「賢明な判断だ。じゃあうちの社員ってことでいいんだよね？」

こくりと頷くと、はあ…と彼は溜息をついて安心したような表情になる。それから私が先刻整えたベッドに腰かけて、「よかった、怪しい人じゃなくて」と笑いかけてきた。

「さっき言ったこと嘘だったらどうするんですか？」

正直、こんな簡単に信じてくれるとは思わなくて少し揶揄うつもりで聞いてみた。

「君の真剣な目を見たら嘘じゃないってすぐわかるよ」

「…はぁ」

あまりにも直球で予想外の返答になんて返したらいいか分からなくて、彼の視線から逃げるように俯く。