phase22 ページ23
*
静黙
それ以外相応しい言葉が見つからない
IUS第二波が過ぎ去った地下は無音の世界だった
*
冷たいコンクリートの床でルプスは目覚めた
昨夜は自分の足の間にAを座らせ、包み込むように抱きしめて嵐に耐えた
いつの間にか床に転がり、二人で眠ってしまったらしい
Aが頭を乗せている右腕が少し痺れていた
規則的な寝息が聞こえ安堵する
あどけない寝顔
まだ夢の中なのだろうか
Aがルプスの胸にすり寄り、顔をうずめてきた
まるで子供が母親に甘えるように
そんな無防備な姿がルプスの心を疼かせた
思わず頭をなぜてしまう
「っ!!」
「起きましたか？」
近い距離にルプスの笑顔
目を見開き驚くAは、ルプスの胸を両手で押し離れようとした
だがソレを許さないルプスは、体を反転させ仰向けになり、
その上にAを乗せたまま抱きしめた
「堅いコンクリートよりましだと思いますよ」
「…」
そんなのは言い訳で
ただ自分が離れ難かっただけ
「少しだけこのままでいさせて下さい」
Aの頭に降り注ぐルプスの声
優しい声音は昨夜の歌と同じだった
初めてだった
嵐の吹きすさぶ音に勝る音が聞こえたのは
まるで絶望の中に射した一筋の光のようで
心地よい場所
ルプスの心音を感じながら、Aは瞳を閉じた
*
「ここは無事だったか」
ビル上階の食料庫
五年後は食堂になっている場所
「昨日から飲まず食わずでしたからね」
ペットボトルの蓋を空け、Aに渡す
受け取ったAはコクコク飲んだ
よほど喉が渇いていたのだろう
水はあっという間に無くなった
「乾パン、ビスケット、レトルト、火は使えないから…Aさん？」
側で共に食料を見ていたAが窓の外に気を向ける
窓から顔を出すと、下で子供たちが泣いていた
一人年長らしい少年が泣く子供たちをなだめている
とぎれとぎれの会話から、子供たちは兄弟で空腹に我慢できずに泣き出したようだった
「・・・・」
「はい」
腕に抱えられるだけの食料を持って、二人は降りて行く
『アゲタイ』
Aは食料と外を指さして、ルプスに伝えたのだった
差し出された食料に大喜びする子供たち
年長の少年は丁寧に頭を下げた
帰り際、手を振りながら微笑むAに対して頬染める
時超えた想いが繋がった瞬間だった
*
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作者名：姫保
| 作成日時：2021年7月29日 10時
