コロッケは六つ ページ5
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立華が「お腹いっぱい」と言ったときには、お盆には三杯もの茶碗が重なっていた。
毎度のことながら、この小さな体のどこにそんなに入るんだ。本人が馬鹿だと満腹中枢も馬鹿になるのか?
馬鹿みたいな量をペロリと平らげた女にエイリアンでも見るような視線を送りつつ、返却口にそれぞれお盆を運び、お手拭きのごみや割り箸はその下のゴミ箱に投げ込む。
すると立華はなにか目ぼしいものでも見つけたのか、分かりやすく目を輝かせてレジに立つ店員に話しかけに行った。
「 すみません!ここお持ち帰りもあるんですか?! 」
「 はい、ありますよ。なにか欲しいものありましたか? 」
「 えーどうしよう!全部美味しそうだから迷っちゃいます! 」
「 ふふっ、ありがとうございます 」
またあいつは……目を離すとすぐに他の人間に絡みに行く。
福良の時と違って相手側が迷惑そうにしている雰囲気は無いから、心配ないとは思うが。
俺も立華の背後に立って、こいつが覗き込んでいるものを確認する。
どうやらそれは、コロッケだったり唐揚げだったりの余り物を安く売っているようだった。
日中のみしか開いていない定食屋のピークは昼だろうから、ピーク時が過ぎたらこうして惣菜の販売もしているのだろう。
確かに入り口の横にそれらしいショーケースがあったような気もする。
「 おい、立華。早く選べ 」
「 待って待って!あとちょっと!あとちょっとだから! 」
「 はい十、九、八、七 」
「 うがー!!コロッケ六つお願いします!!! 」
「 コロッケ六つですね 」
こいつあれだけ食べていたのにまだ食べる気なのか。体重がよく変動する人間から言わせてもらうが、いい加減太るぞお前。
若干引いた目で見つめている俺の視線に奴が気づくわけもなく、立華はコロッケの入った袋を両手で受けとると、嬉しそうにこちらにアピールしてきた。
ただコロッケを六つ買っただけでおめでたい奴だ。俺にはその感覚は理解できない。
奴に奢るのも奢られるのも癪なので、いつも通り自分の分だけ払い、店を出る。
隣を歩く女は大きく伸びをして俺に笑いかけてきた。「また来ましょうね」と。
「 無理。お前と居ると疲れるし、僕の昼はコンビニで十分事足りる 」
「 じゃあ明日はコンビニでお弁当買いましょ! 」
「 残念だけど明日はおにぎりって決めてる 」
「 私絶対鮭!! 」
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作者名:朝田 | 作成日時:2021年2月26日 0時