▼.夢の果てでまたいつか / エース ページ8
「……いいの、他のやつらには挨拶しなくて」
「うん。
みんなが寝てるうちにいなくなるなんて酷いかもだけど、やっぱり、こうでもしなきや帰れないから」
二人きりの広間で、淡くキラキラと魔法の鏡が光る。やっと見つけた、監督生が帰れる方法。それの前で、監督生はオレの方を向いて、眉尻を下げて困ったように笑う。
帰りたくないって気持ちもあるなら、帰んなきゃ良いじゃん。
_____とは、言えない。
コイツの、辛くても帰るって決めた勇気を無下にしたくない。
だから言葉を呑み込む代わりに、オレは監督生の肩を叩く。ちゃんと感触が届いたことに安心した、そんな自分に呆れ返る。
……あーあ、監督生がいないと、オレ。
「……ま、大丈夫でしょ。
あとのことは任せてよ、監督生」
「あはは、うん、エースになら任せられる。
……グリムのこと、よろしくね」
「……ん」
言葉を囁いた監督生の目は、ひどくやさしい。オレがその言葉に頷くと、監督生は本当に安心しきったように微笑んで、心地好い沈黙が積もる。
「……………………あーあ」
ふと、監督生が苦笑混じりに息を吐く。沈黙を破るというには柔らかく、あまりに弱々しい笑み。
それをオレに向けて、監督生は細い指でちょっと伸びた短い黒髪を耳にかける。
「エースとならあんまりしんみりしないって思ったんだけどなぁ」
「なにそれ?」
思わず鼻で笑って聞くと、監督生も「何でだろう」とくすくす笑う。
「……ま、デュースとかグリムは大泣きしそうではあるよね」
「ね〜」
それを想像したのか、監督生はまた楽しそうに笑う。ひとしきり笑って、そして小さく「楽しかったなぁ……」と呟いた。
……ほら。
未練たらたらじゃん。そんなんであっち戻ったら、後悔するかもよ。ね、監督生。
そんなことを言えていたら、多分オレはもっと早くから、監督生をこちらに繋ぎ止めるために何でもやったのに。
「……監督生、左手出して」
「うん?」
「最後に楽しい魔法をかけてあげる」
……これが悪夢なんかになりませんように。
監督生が帰ったあとで、泣きませんように。
この『楽しかった』夢のまま、
魔法にかけられたまま、
どうか幸せであり続けられますように。
監督生の手をとって、その指先に軽く口付ける。そして、ぱちん、と指を鳴らした。
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硝子屋(プロフ) - 食パンさん» リクエストありがとうございます。ゆっくり更新になるとは思いますが、気長にお待ちくださると幸いです。 (7月11日 23時) (レス) id: bfedb6e9a1 (このIDを非表示/違反報告)
食パン(プロフ) - あのぉ趣味でやってるなら申し訳ないのですが厚かましいお願いです。レズで元の世界に彼女もちの監督生夢主と、本気で夢主を墜とすつもりでいるルクハンをお願いしたいです!※夢主は彼女から離れるつもりはないあと夢主は女の子。これからもほどほどに頑張ってください (7月10日 18時) (レス) id: 1be4b3aa35 (このIDを非表示/違反報告)
硝子屋(プロフ) - ハイドさん» 返信遅くなって大変申し訳ありません……!リクありがとうございます、承りました!ただ、私情によりこれから先更新できる頻度が少なくなってしまいますので、気長にお待ちくださると幸いです……。 (2021年2月2日 20時) (レス) id: c0a77834dc (このIDを非表示/違反報告)
ハイド - 初めまして!リクエスト良いですか?キャラに盛る毒を夢主が奪って飲み込んだらをお願いします!キャラはフロイドでお願いします! (2021年1月31日 11時) (レス) id: 76fb91e4e9 (このIDを非表示/違反報告)
硝子屋(プロフ) - ソーダさん» ありがとうございます〜〜!そう言っていただけるのが何より嬉しいです……! (2020年12月24日 18時) (レス) id: c0a77834dc (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:硝子屋 | 作者ホームページ:
作成日時:2020年3月2日 16時