無礼を謝る ページ10
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峠の向こうまで走って、俺は夕刻には藤の家に戻った。
おもての門をくぐると、中座敷のほうから、先ほどの隊士たちだろうか、賑やかな声が聞こえてきた。
……全く、藤の家を何だと思っている。
俺は中座敷の横の通路を通りながら、どうやら酒盛りをしているらしい彼らの声に眉を顰めた。
―――「お嬢さんもほら、こっち来て!」
―――「こっちの徳利もカラでーす!!」
―――ガチャン、
―――「あーっ、零すなバカ!もったいない!」
―――「お嬢さーん!ふきん持ってきて!」
ワハハ……
これか、胡蝶が言っていたのは。
藤の家紋の家が鬼殺隊に便宜を図ってくれるのは、御館様とこれまでの隊士たちの功績あってのことだ。
現役の俺たちの力によるものでは決してない。
俺は、ダン、とふすまを両側に大きく開けた。
「……貴様ら、無礼も大概にしろ。」
一瞬、中にいた4名ほどの隊士は気色ばんで立ち上がろうとしたが、そのうちの一人がそれを制する。
「おい、やめろ。柱だ。」
「クソ、なんでよりによって柱とこんなところで……。」
「チッ……、片付けるぞ。」
彼らはぶつぶつ言いながら散会した。
俺は、花殿の代わりに支度を手伝っていたのだろうA殿の手を取ると、あとはやらせておけばいい、と言って座敷から連れ出す。
『も、……申し訳ありません、お見苦しいところを。』
「なぜ、A殿が謝る
こちらのセリフだ。本当に申し訳ない。
座敷も汚してしまった。」
見れば、A殿はよほど情けなかったのか、涙をにじませていた。
俺はますます腹立たしい。
「……、」
俺が座敷のほうへ戻ろうとするのを、しかしA殿は袖をつかんで止めた。
『お気になさらず。
わたくしどもは大丈夫ですから。
……これもお役目の一つですから。』
「―――A、」
廊下の向こう側から、ご母堂と花殿がぱたぱたと駆けてくる。
「どうかなさったの?鬼狩り様がたは?」
「お座敷でお食事中ですわ。……わたくしちょっと、体調が。」
涙声に、もろもろ察した様子でご母堂はその背をさすった。
「本当に、情けない……。」
「冨岡様がそのようにお感じになる必要はありませんわ。
さ、A、あなたは少し休んでなさい。
わたくしと花で床の用意もしておきますから。」
ご母堂に目配せをされ、俺はしぶしぶその場を離れ、あてがわれた座敷へ戻る。
……胸糞悪い。
くさくさしながら、明朝の出立の準備を始めた。
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瑞姫(プロフ) - 今吐露2でリアルに泣いております、、思わずよくわからない報告コメント申し訳ないですめちゃくちゃ好きですこの作品 (2020年6月24日 23時) (レス) id: 445b4986a2 (このIDを非表示/違反報告)
pink0223xxx(プロフ) - はじめまして、更新お疲れ様です。素敵な言葉遣いや雰囲気が想像がしやすくてどんどん引き込まれていきました。泣いたり笑ったり楽しかったです。応援してます! (2020年6月3日 21時) (レス) id: 086d84223c (このIDを非表示/違反報告)
おんたま(プロフ) - はじめまして。更新お疲れさまです。完成度が高くすごく素敵な作品だと思います。無理のない範囲で更新頑張ってください。応援しています。 (2020年6月3日 2時) (レス) id: 8f0607afea (このIDを非表示/違反報告)
イトカワ(プロフ) - お返事できてないお三方、コメント返信できてなくてすみません、いつも更新遅くてすみません、読んでくれてありがとうございますloveです (2020年6月2日 19時) (レス) id: 100d291aa9 (このIDを非表示/違反報告)
madoka(プロフ) - 更新お疲れ様です!ずっと待ってました〜っ!!これからも頑張ってください。 (2020年5月24日 21時) (レス) id: f3e815359c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:イトカワ | 作成日時:2020年4月19日 22時