春の嵐 -3 ページ6
***
「……A殿。」
俺は、―――抱きとめたのは確かに自分なのだが、―――強く胸に顔をうずめているお嬢さまに狼狽しながら、声をかけた。
A殿の細い細い肩は小刻みに震えている。
なんだかおかしくなってしまい、思わず噴き出した。
「鬼の前にも果敢に立ちふさがるA殿にも、苦手なものがあるのだな。」
そうしてようやく、自分がよく知りもしない男にしがみついているということに気づいたようで、彼女は恐る恐る顔を上げた。
そのうるんだ目や、鼻のつけねまで真っ赤にした、透けるような肌に思わず心臓が跳ねる。
その段になって俺もまた、その体の華奢さとやわらかさを全身に預けられていることに気づき、いちどきに脈拍が上がった。
『も、申し訳ございません!』
はじかれたように離れたA殿は、ふたたびバランスを崩してころびそうになる。
俺はあわててもう一度腕をつかんで引き戻した。
「……落ち着いて。」
『はい……。ああ、お恥ずかしい……。』
そこで始めてA殿の顔を真正面から見たような気がする。
お嬢さんは男の顔をはっきり見ないものなのだろう。
A殿の端正に結った髪が乱れ、ひたいにはらりとかかっている。
俺はほとんど無意識に、その髪をなでて耳にかけた。
「……あれまあ……。」
不意に、豪雨を背景にして、使用人の嘆息のようなつぶやきが聞こえてきた。
ばらばらと雨が傘を打っている。
『……は、花!!』
「いやはや……お嬢様、遅くなりましてご心配を……。」
『花、これは、違っていてよ、ちょっとわたくしが躓いてしまってね?』
「お嬢様、私は何も見ておりませんゆえ……。」
俺は、そんなやりとりをぽかんと呆けて見つめた。
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瑞姫(プロフ) - 今吐露2でリアルに泣いております、、思わずよくわからない報告コメント申し訳ないですめちゃくちゃ好きですこの作品 (2020年6月24日 23時) (レス) id: 445b4986a2 (このIDを非表示/違反報告)
pink0223xxx(プロフ) - はじめまして、更新お疲れ様です。素敵な言葉遣いや雰囲気が想像がしやすくてどんどん引き込まれていきました。泣いたり笑ったり楽しかったです。応援してます! (2020年6月3日 21時) (レス) id: 086d84223c (このIDを非表示/違反報告)
おんたま(プロフ) - はじめまして。更新お疲れさまです。完成度が高くすごく素敵な作品だと思います。無理のない範囲で更新頑張ってください。応援しています。 (2020年6月3日 2時) (レス) id: 8f0607afea (このIDを非表示/違反報告)
イトカワ(プロフ) - お返事できてないお三方、コメント返信できてなくてすみません、いつも更新遅くてすみません、読んでくれてありがとうございますloveです (2020年6月2日 19時) (レス) id: 100d291aa9 (このIDを非表示/違反報告)
madoka(プロフ) - 更新お疲れ様です!ずっと待ってました〜っ!!これからも頑張ってください。 (2020年5月24日 21時) (レス) id: f3e815359c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:イトカワ | 作成日時:2020年4月19日 22時