持つべきものは -1 ページ29
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晩秋、夜がいよいよ長くなり、鬼殺隊は忙しさを増した。
毎日のように警邏と任務をこなしつつ、たまに任務のない日の昼間は鍛錬に時間を充てる。
A殿の身を案じないわけではなかったが、とにかく忙殺されて文を出すどころでもなく。
彼女からも便りはなかったので、…引き続き無事ではあるのだろうと思っていた。
その日も、鍛錬もひと段落して縁側で休憩をとっていたときだった。
「…珍しい」
珍しい来客に、俺は思わずそのまま口に出してしまう。
不死川は、途端にむっとして「うるせェ」と応じる。
こいつは俺が何を言っても「うるせェ」としか、応じない。
「何か用か?任務か?」
「…違ェよ」
屋敷へ上げようと促す俺を制して、不死川は小さな包みを差し出した。
「こないだやたら稀血のことを気にしてやがったからなァ。
ホラ、俺が稀血の一般人に出会ったときに渡してる護符、やるよ」
俺はそれを受け取りながら首をかしげる。
「鬼除けの護符は、御館様からいただけるはずだが」
「バァカ、稀血ナメんじゃねェ。
ちゃんと稀血用の護符って伝えたか?」
「…ない」
「あらかた、助けた女子供が稀血じゃねェかって思って俺に稀血のこと聞いてきたんだろ」
当たっている。
俺は、―――意外にも頭が働くのだな、という顔をしていたらしい。
不死川が額に青筋をたてながら、その顔ヤメロ!と怒鳴る。
「…生まれつきの顔だ」
「稀血だったら並の護符じゃァひと冬もたねえぞ。
だいたい、その年の藤の花の季節に作った護符は、次の年の藤の季節には三割は効果が落ちてる。
ふつうの人間ならそれでも問題ねェ。が、稀血は話が別だ。
分かったらさっさと取り替えて来い」
「不死川、…」
俺が、有難う、と言おうとしたのを察したのか、不死川はまたぎろっと睨むような顔をした。
「てめぇのためじゃあねェ!
稀血食った鬼の相手はしたくねェからな!そんだけだ!」
俺は、渡された包みをじっと見る。
かすかに、藤のお香を焚きしめたような香りがする。
不死川は本当にそれだけのために来たらしく、さっさと敷地を出ていった。
その物騒な短羽織りと、肩で風を切るような歩き方を呆けて見ていると、一陣の風が吹いて、そして不死川の姿は消えていた。
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瑞姫(プロフ) - 今吐露2でリアルに泣いております、、思わずよくわからない報告コメント申し訳ないですめちゃくちゃ好きですこの作品 (2020年6月24日 23時) (レス) id: 445b4986a2 (このIDを非表示/違反報告)
pink0223xxx(プロフ) - はじめまして、更新お疲れ様です。素敵な言葉遣いや雰囲気が想像がしやすくてどんどん引き込まれていきました。泣いたり笑ったり楽しかったです。応援してます! (2020年6月3日 21時) (レス) id: 086d84223c (このIDを非表示/違反報告)
おんたま(プロフ) - はじめまして。更新お疲れさまです。完成度が高くすごく素敵な作品だと思います。無理のない範囲で更新頑張ってください。応援しています。 (2020年6月3日 2時) (レス) id: 8f0607afea (このIDを非表示/違反報告)
イトカワ(プロフ) - お返事できてないお三方、コメント返信できてなくてすみません、いつも更新遅くてすみません、読んでくれてありがとうございますloveです (2020年6月2日 19時) (レス) id: 100d291aa9 (このIDを非表示/違反報告)
madoka(プロフ) - 更新お疲れ様です!ずっと待ってました〜っ!!これからも頑張ってください。 (2020年5月24日 21時) (レス) id: f3e815359c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:イトカワ | 作成日時:2020年4月19日 22時