吐露 -1 ページ26
***
「…あらあら」
どのくらいそこにしゃがんでいたかわからないが、聞き覚えのある声にぱっと顔を上げる。
「だめですよ、陽が落ちてからあなたのような人が外に出ては」
『し…しのぶ、さん』
「冨岡さんからのお手紙は読まれました?」
しのぶさんだ。
音もなく、彼女は私の前に現れてしゃがむ。
「Aさん?」
私が思わず涙をこぼしたからか、彼女は少しうろたえた。
「…なにか、ありました?」
そして、とんとんと私の背中をやさしく撫でた。
先ほど敬一郎さんに掴まれた肩の違和感がほどけるように消えていく。
この人は魔法でも使えるのだろうか。
『わたくし、お嫁になんて行きたくありません』
堪えきれずに、私はこぼした。
あら、なぜですか?としのぶさんはやさしく問う。
『漆原のお家は、わたくしの家の名前にしか興味がありません』
『父は焦って、漆原のお金の援助に目がくらんでしまっています』
『わたくしは…わたくしは、わかってはいますけれど、
せめて望まれてお嫁に行きたかった。
好いた方のもとに…』
「…Aさんは、好いた方がいらっしゃるのですね」
しのぶさんが、少し楽しそうな声で言う。
私ははっとして、いえ、と思わず否定した。
『わたくしは、しのぶさんのように、自分で決めて自分で生きていくことが、できませんから。
…恋などは、あまりに高望みですわ』
「そんなことありませんよ」
にっこりと笑う彼女の美しい顔に見とれていると、「いつだってどういう道を選ぶかは、Aさん次第ですよ」と励ますように言われた。
…彼女は自由なのだろう、と私は、―――冨岡さん、―――と呼んで、その腕に触れる彼女の姿を思い出しながら、妬ましい気持ちになる。
私はとても、人前で男性に触れるなんて許されない。
『しのぶさんがうらやましい』
「…そう?」
そう言って首をかしげる彼女は、…しかし、あまりにも寂しそうな、悲しそうな顔をしていた。
私は自分の失言に気づく。
彼女が鬼狩りになるに至るまで、いったいどれだけの悲しみを踏んできたのか、知りもしないくせにひどいことを言ってしまった。
『ごめんなさい、今のは、忘れてください』
しのぶさんは、しばし私の顔をきょとんと見つめる。
***
465人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「鬼滅の刃」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
瑞姫(プロフ) - 今吐露2でリアルに泣いております、、思わずよくわからない報告コメント申し訳ないですめちゃくちゃ好きですこの作品 (2020年6月24日 23時) (レス) id: 445b4986a2 (このIDを非表示/違反報告)
pink0223xxx(プロフ) - はじめまして、更新お疲れ様です。素敵な言葉遣いや雰囲気が想像がしやすくてどんどん引き込まれていきました。泣いたり笑ったり楽しかったです。応援してます! (2020年6月3日 21時) (レス) id: 086d84223c (このIDを非表示/違反報告)
おんたま(プロフ) - はじめまして。更新お疲れさまです。完成度が高くすごく素敵な作品だと思います。無理のない範囲で更新頑張ってください。応援しています。 (2020年6月3日 2時) (レス) id: 8f0607afea (このIDを非表示/違反報告)
イトカワ(プロフ) - お返事できてないお三方、コメント返信できてなくてすみません、いつも更新遅くてすみません、読んでくれてありがとうございますloveです (2020年6月2日 19時) (レス) id: 100d291aa9 (このIDを非表示/違反報告)
madoka(プロフ) - 更新お疲れ様です!ずっと待ってました〜っ!!これからも頑張ってください。 (2020年5月24日 21時) (レス) id: f3e815359c (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:イトカワ | 作成日時:2020年4月19日 22時