いの一番に考えたこと ページ24
***
今日は父母も一緒に来ているのだという敬一郎さんに促され、私は座敷へ向かった。
歓談しているところに二人で戻ると、先方の父君が快活に笑って、おお、A殿、と言った。
敬一郎さんは母親似だな、と改めて思う。
何を考えているのか図りづらい細面といい、冷たい声といい。
『出迎えもせずに、大変失礼いたしました』
「構わん構わん、先ほど父君に伺ったが、結納の衣裳をお選びとか」
『ええ。
…敬一郎さんが、一番似合うものを選んでくださいましたの。
そちらに決めましたわ』
そう答えると、彼らはまた満足そうに笑った。
「それで、先の話の続きだが、」
私からの挨拶がひと段落して、敬一郎さんの父君が父に向き直る。
私は用事をちょうどよい頃合いと、花に命じて敬一郎さんのお茶とお菓子を出すようにいい伝え、母の後ろにそっと座る。
「このたび藤のご紋を下ろされるとか」
私は、はっと顔を上げる。
その様子を、敬一郎さんだけが目ざとく見つけて、薄く睨んだ。
「ええ、そろそろ潮時かと。
婚礼の準備も立て込んでくる。
あまり外のものを出入りさせるのも考えものだと思いましてな」
父は答えた。
「まあ、私には藤のご紋の家の責務というのが今一つわからないままだが、
もう十分に報いたということですか」
「左様、父上も許してくれよう」
藤のご紋を下ろす。
…そうしたら、もう二度と冨岡様がここを訪ねることはないのでしょうね。
***
翌日、聞きなれないざわめきに目を覚まして、縁側の障子を開けると、見知らぬ工夫たちが庭の藤棚を解体している。
さっと血の気が引いて、私は寝巻のまま、裸足で庭へ飛び出した。
『何をなさっているのです!?』
彼らは突然現れた寝巻の女にぎょっとし、「いや、俺たちは旦那に頼まれて、」ともごもご答える。
『そんな、お父様、』
私は慌てて屋敷に戻ると、父の書斎を目指す。
『お父様!』
バン、と突然ふすまを開けて現れた私に、父は眉をひそめた。
「A、なんだそのはしたない恰好は、着替えてきなさい」
『庭の…藤の樹を伐ってしまわれるのですか!?なぜ…』
父は、それか、とため息をついて、
「A、お前にはもう関わりのないことだ」
ピシャリと言う。そして、お前は家を出るのだ、自覚なさい、と続けた。
『でも、あの藤棚はおじいさまが』
父はそれを遮り、もう一度、今度は強い口調で「お前には関わりのないことだ」と言った。
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瑞姫(プロフ) - 今吐露2でリアルに泣いております、、思わずよくわからない報告コメント申し訳ないですめちゃくちゃ好きですこの作品 (2020年6月24日 23時) (レス) id: 445b4986a2 (このIDを非表示/違反報告)
pink0223xxx(プロフ) - はじめまして、更新お疲れ様です。素敵な言葉遣いや雰囲気が想像がしやすくてどんどん引き込まれていきました。泣いたり笑ったり楽しかったです。応援してます! (2020年6月3日 21時) (レス) id: 086d84223c (このIDを非表示/違反報告)
おんたま(プロフ) - はじめまして。更新お疲れさまです。完成度が高くすごく素敵な作品だと思います。無理のない範囲で更新頑張ってください。応援しています。 (2020年6月3日 2時) (レス) id: 8f0607afea (このIDを非表示/違反報告)
イトカワ(プロフ) - お返事できてないお三方、コメント返信できてなくてすみません、いつも更新遅くてすみません、読んでくれてありがとうございますloveです (2020年6月2日 19時) (レス) id: 100d291aa9 (このIDを非表示/違反報告)
madoka(プロフ) - 更新お疲れ様です!ずっと待ってました〜っ!!これからも頑張ってください。 (2020年5月24日 21時) (レス) id: f3e815359c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:イトカワ | 作成日時:2020年4月19日 22時