［完］黒死牟邸に居候してます (ページ6)

今日:9 hit、昨日:2 hit、合計:145,057 hit

半透明になる ① ページ6

＊＊＊

さて、そろそろ例の現象が出る頃合いだ。
胸というかみぞおちというか、体の真ん中あたりがぞわぞわと乱される。
手先を見れば、ほら、今日の丸い月が薄っすら透けて、半透明になっている。
全身がぽよぽよと半透明になったあたりで、私は立ち上がった。
足が浮いている。
ちょっとだけ空を蹴り、縁側から座敷に入ると、そのまま一枚、二枚、三枚と襖を通過する。
半透明になっている間は、開け閉めせずともそのまま抜けられる。
ぽよん、ぽよんと抜けていく。
最後に一枚襖を抜けて、私は居室の中央にじっと座って瞑想をしている黒死牟さんを見つけた。

そのまま、黒死牟さんの背中にぴたりとひっつく。
じんわりと着物を抜けて、生身の膚にたどり着くと、そのまま潜るように、黒死牟さんの体と私の体を混ぜる。
膚と膚が一体化する瞬間、黒死牟さんはいつも呼吸が浅くなる。
私はわざわざそのことを伝えてはいないが、膚と膚がまるで薄い膜を壊すように一体化するとき、黒死牟さんがものすごく気持ちいいと思っていることを知っている。
なぜならそのとき、私と黒死牟さんの感覚は一つになっているので。

浅く息を吸って吐いて、黒死牟さんは小さく震える。
ほんのわずかに、うめき声をあげさえする。
今日は久しぶりにあのお方に会ったので、私の興奮もひとしおだったのか、いつもの倍は気持ちよく感じる。

そうしてしばらく待って、快感が落ち着いた頃に、ずるん、と私は黒死牟さんの中から脱げるように出てくるのだ。
私の半透明だった体はしっかりと実体を取り戻している。

以前ほかの鬼で試してみたことがあったが、一体化してそのままむこうを吸収してしまい、うまく半透明から戻れなかった。
たぶん、実体に戻るときに、相手方のなにかを取り込んでいるんだと思うんだけど、
たいがいの鬼はそのなにかを取り込まれるときに、まるごと私に奪われてしまう。

あるとき黒死牟さんで試してみたら、そりゃもう気持ちいいわスムーズに実体に戻れるわで、以来私はここに住んでいる。
琵琶の鬼もここなら迷わずに繋いでくれるしね。

『今月もありがとうございました。』

私は恍惚の表情のまま指をついて一礼すると、いそいそと部屋を去る。
そして隣室の床板を外して、お気に入りの床下スペースに潜り込んだ。

気づけば薄っすら空が白み始めている。
明日の日暮れまでしっかり寝ていよう。