［完］黒死牟邸に居候してます (ページ32)

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いつかは死ぬページ32

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いつかは死んでしまうのだろう。

急にセンチメンタルな気持ちになることはある。いつか死んでしまうということこそが、今生きているということを証明してくれるように思う。どんなに醜い生き物に成り下がっていても、死にたくないうちは生きるしかないということを。

『黒死牟さんも、いつかは死にますか？』

私は、猫ほどの大きさになって黒死牟さんの頭の上に乗っている。黒死牟さんは刀を丁寧に手入れしている。

「鬼は死なない。」

『私も死なないかな？』

「お前は……どうだろうな。弱すぎて……明日死ぬかもしれぬ。」

『鬼は死なないけど、私は死ぬ？そしたら、私だけは生きてるってこと？』

もう、人間ではないけれど。
人の生き血を啜る怪物になってしまったけれど。

「だが死んだら、……全て無になる。お前のことなど……死ねばもう誰も覚えてはいない。死ねば終わりだ。……せいぜい、死なぬようにしろ。A草。雑草なりに。」

黒死牟さんは、私の問には答えず、ほとんど自分に言い聞かせるように、言った。それを聞いたとき、私はいつかこの人も死ぬんだろうと確信した。それはつまり、私と同じように黒死牟さんも生きてるってことだ。死にたくないってことだ。仕方なくなのか、望んでなのかはわからないけど。

「妙なことばかり……言うんじゃない。思春期でも……あるまいし……。」

黒死牟さんは、手入れの終わった刀(気持ち悪い)をすらりとさやに戻す。

『無にはならないよ。』

『私も、黒死牟さんも、死んでいった人たちも。』

ズルズルと頭からずり落ちて、黒死牟さんの顔にしがみつく。黒死牟さんの、あまりにも長く生きたせいで作り物のようになってしまった膚をふやかすようにペロペロと舐める。黒死牟さんは私を掴んで剥がすと、腰に戻した刀のつかに乗せて立ち上がる。夜になったのだ。黒死牟さんは腹を満たしに外へ出るのだろう。私はつかからさやに移り、しゅーと滑って床へ降りる。見上げて、思う。あなたが殺した人も、無になんてなっていない。私たちは私たちが殺し積み重ねてきた業に、いつか燃やされて死ぬ。どうか、私のときだけはそれが、痛くないといい。