［完］黒死牟邸に居候してます (ページ26)

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兄妹 ① ページ26

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ある日のことである。

その日は、あのお方の機嫌がすこぶる悪かったのか、私は見知らぬ街中に飛ばされた。
ここからどうやって黒死牟さんの屋敷に戻ればいいのか皆目見当もつかない。
ぼやぼやしていると朝が来てしまう、私は仕方なく、街中で息を潜めている適当な鬼に潜る。
どうしてもその辺の鬼の一体二体ではうまく透明化から戻ることができず、五体吸収してようやく私は実態を取り戻した。
もしかして私なかなか優秀な鬼狩りなのでは？

そのままてくてくと歩いているうちに、吉原へ着いた。
既に大方が寝静まっているが、治安が悪そうだ。
すでに未明を過ぎ始めており、私はとりあえず朝を迎える前に適当なねぐらでも見つけようときょろきょろした。

「おいおい、」

寂れた郭の裏手に、ちょうど柔らかそうな土の場所を見つけ、私はそこに穴を掘り始めたが、ちょうど腹くらいの高さまで掘り終え、あとはうまいこと埋め戻すだけ、と一息ついたとき、不意に後ろから声をかけられた。
まずい、変なところに穴を掘っている怪しいやつだと思われてしまう。

「妙な気配がすると思ったら、鬼じゃねえかああ」

ん？鬼？私は穴から頭だけ出して姿を確認する。

『どうも……。』

そしてとりあえず挨拶をした。
痩せ細り、わかめのようにうねった髪の辛気臭い鬼だ。歯がぎざぎざで、怖い。
辛気臭い鬼は、穴のわきにかがんでこちらを覗き込んだ。

「そんなところに穴掘って、何やってんだあ？」

『朝が来るので、ここで寝てやり過ごそうかと。』

「そうかあ。
お前、知らねえんだろうけど、そこは貧乏な客が立小便してる場所だあ。」

私は、ギャーッと叫んで飛び上がる。
飛び上がったが、想定より深く掘ってしまったがために、うまく穴をよじ登れずにまた底のほうに転がり落ちた。

「あーあー。みすぼらしいやつだなああ。」

辛気臭い鬼は、腕を伸ばして引っ張り上げると、金平糖をくれた。
鬼は基本的に飲食をしないが、その星のかけらのようなきれいさが刺さり、いま鬼界では空前の金平糖ブームなのだ。
私はそれを五粒もくれた辛気臭い鬼をいいやつだと思った。

「しょうがないやつだなああ。妹のところで夜まで預かってやるかあ。」

えっ、めちゃめちゃ面倒見がいいな？もうずっとこの鬼のところに住もうかな。
黒死牟さん、もうAは戻らないかもしれません。
私はほいほいとその鬼について行った。