［完］黒死牟邸に居候してます (ページ13)

今日:6 hit、昨日:2 hit、合計:145,054 hit

畦道にて ② ページ13

「なんだ……。
刀を抜かぬのか……？」

鬼狩りはのんびり屋さんなのだろう、ここですよとばかりに真っ白の私のうなじが差し出されているというのに、刀を抜いた音すらしない。じり、と足先が動いて、

「ーーーいや、俺はお前の頸を落とすぞ、鬼！！！」

鬼狩りはそう叫んだ。
同時に、うなだれている私の脳天の真上から、ものすごい血が降り注いだ。
生ぬるい、まとわりつくような雨。
鬼狩りの血が、脳天から伝ってぽたぽたと鼻先から落ちる。
私は思わず、唇を伝う血の一滴を舐めた。

ーーーえっなんで舐めた？汚な！！

けれどもその意に反して、私はそれを舐めるのを止められない。
いよいよ指先についたのまで舐めとりながら、ゆっくり立ち上がって黒死牟さんに向き合う。

『ついつい血を飲んでしまいました。』

鬼狩りの体を刀に突き刺して掲げたまま、黒死牟さんが動きを停止した。

『ちょっと失礼したいんですけど、
……よろしいでしょうか？』

黒死牟さんがたじろぐ。

ーーーほらほら、来たぞ。腹のぞわぞわが。
私は、指先から次第に透けていく血まみれの体で、ぽよんと勢いよく黒死牟さんに覆いかぶさった。

＊＊＊

いい血だったからなのか、殺気高まりきった鬼狩りの最期の血だったからなのか、
それはもう気持ちよく泳いだ。
いつも背中側から侵入するが、今日は腹側から入ったのも良かったのかも。
やはり背中側よりも致命的な臓器が近いからか、一体化もスリリングでいい。
ダメだ、このままだと朝まで潜っていたくなる。
そうしたら黒死牟さんの体の中で、私はこんがり蒸し焼きだ。
そういう料理もある。
鶏の腹を割いて米や野菜を詰めて焼くやつ。
ーーーそれも悪くないな。

私がそんなことを思ったのが伝わり、黒死牟さんがもがき始めた。
頃合いかな、と私は黒死牟さんを脱いだ。

「……退け……。」

『目6つも潤ませて言っても迫力ない。』

私はよっこらせ、と黒死牟さんから降りる。

『その鬼狩りの人は、今から食べますか？
食べるんなら、私ほんとそういうの無理なんで先に帰りますね。』

黒死牟さんが無視するから、私は肩をすくめててくてくと屋敷へ戻った。
はあ～最高の夜だった。

＊＊＊

あの後あのお方に呼び出されてバチクソ怒られたのだが、どうも黒死牟さんはしばらく動けず、暁を迎えかけて命からがら屋敷に戻ってきたらしい。
あのお方から、屋敷の中以外でするな、と厳命されたきっかけの出来事だ。