17話 ページ17
だが、そううまく転ばないのが人の世のままならなさだ。
その日の昼食後、杏寿郎さんが午睡のために寝室にこもった後、いつものように警邏の夜食にと握り飯を握っていると、けたたましい声とともにカラスが飛び込んできた。
同時に、スタン、と寝室の襖が開き、
「A殿、申し訳ない!
緊急招集だ!上弦の尻尾を掴んだ!
しばらく空けるかも知れん!」
そう言うと、杏寿郎さんはものすごい風を巻き上げるようにして視界から消えた。
カラスが一呼吸遅れ、弾丸のように追う。
私は、握り飯を手に乗せたまま、ぽかんとその姿を見送った。
上弦……、とかそういうものについては、仕事の説明を聞いた時に、教わった。
とにかく、ものすごくものすごく強い鬼だ。
ものすごく。
鬼殺隊の最上位でも、もう100年以上その頸を落とせていない鬼。
杏寿郎さんのような隊士を数え切れないほど屠ってきた鬼。
杏寿郎さんを明日、殺すかも知れない鬼。
ーーーい、嫌だ、
私は、握り飯をとり落す。
脳裏に、かの日の血だらけの杏寿郎さんが浮かび、その頸がずるんと落ちる。
灰になる。
『行かないで、』
ーーー死なないで。
そうだ、これが、煉獄の家に嫁ぐということなのか、と私はあまりにも唐突に理解する。
理解したが、止める相手の袖はそこにはない。
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やも - 冨岡夢の作品を読んでこちらも拝見させてもらいました。やっぱり文章が綺麗に洗練されていてとても好きです!素敵な作品ありがとうございました。 (2020年5月7日 14時) (レス) id: be623916d5 (このIDを非表示/違反報告)
イトカワ(プロフ) - Rさんさん» コメントありがとうございます〜!変な文章どころかありがたい文章です…今のところ続きは書いてなうのですが、書くことがあればこの小説にリンクでも貼ろうかなと思ってます! (2020年4月15日 21時) (レス) id: 218c4f48c9 (このIDを非表示/違反報告)
Rさん - 完結おめでとうございます!コメントするの初めてなのですが変な文章になってないでしょうか?とても感動しました!続きなどあれば是非教えて下さい!素敵な時間ありがとうございました (2020年4月15日 14時) (レス) id: f96fb724ca (このIDを非表示/違反報告)
イトカワ(プロフ) - 炎さん» 一気読みできるテンポを狙って書いていたので、コメントうれしいです、励みになります!読んでいただいてありがとうございました! (2020年3月30日 15時) (レス) id: f96b77b227 (このIDを非表示/違反報告)
イトカワ(プロフ) - ss好きの923chanさん» ありがとうございますー!読んでいただけて嬉しいです。また思いつけば短編でも書こうかなとは思ってます! (2020年3月30日 15時) (レス) id: f96b77b227 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:イトカワ | 作成日時:2020年3月27日 23時