恋だとか愛だとか【エース・トラッポラ】

第１０話 ページ10

バイトが終わって帰る方向が同じだから監督生と一緒に帰ることになるのは仕方ないと思っていたが、何故かフロイドに俺だけ呼び止められる。

フロイドと俺は監督生を見送り、厨房に残っている。


「何故、俺だけ居残り？仕事出来ないのは監督生の方なのでは？」

「なんとなく？オレの気分？」


最悪だ。ころころと気分の変わるこの人に当然ついていけるわけがない。さっさと終わらして帰ろう。

「仲良くしてよ、稚魚ちゃん」

わざとらしく甘い声で名前を呼ぶが鳥肌が立つ。一体何を考えているんだ。


「監督生と違って俺は全然面白みないですよ。直ぐにその機嫌も急降下しますよ」

「ウミヘビくんの言ってた通りだねぇー」

「…何がです？」


フロイドは「別にー？」と下手くそに誤魔化す。舐められるようにじっとりと見つめられ、正直不快だ。


「稚魚ちゃんて何が好きなの？」

「急になんです？」

「オレが質問してんだけど？あんま稚魚ちゃんのこと知らねぇから、この機会に仲良くなろうって思ってるだけなんだけど」

「絶対に嘘。フロイド先輩、オレに興味なんてないでしょう。エースに何か言われたんですか？」


フロイドはぶつぶつと何かを言うが、何を言っているのか聞き取れない。ウミヘビくんてジャミルのことだっけ。


「バスケ部で俺のこと話してるんです？絶対にエースが何か言ってますよね？」


バスケ部で最も関わりの薄いジャミルが俺のことを話しているということは、エースが何かしら俺の話をしたとしか思えないんだが。


「カニちゃんがお前のこと可愛よねって話を聞いただけだけど？」

「茶化さないでください」


ハッキリと顔に出ていたんだろう。先輩に向けるような顔ではなかった。何故ならフロイドが眉を顰めていたから。


「なんでカニちゃん、お前のこと好きになったのかイマイチわかんないんだけど。オレがカニちゃんだったら小エビちゃん好きになると思うんだけどな」

「俺が一番謎に思っていることなんで口にしてないで貰えます？」

「あ、ごめん。傷付いた？」

「お気遣いなく。フロイド先輩の言っていることは正しいので傷付くも何も無いですから」


フロイドは頭をガシガシと掻きながら「こりゃあ頭抱えるわけだ」と言っていた。


「お前より面倒くさくないけどオレと同じ寮の奴いるんだけど、お前に若干似てるところがあって気になるんだよね」

「…その人のこと好きなんです？」

問いかけたがフロイドは答えなかった。

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