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そうだね、と左手首の腕時計を確認する歌詞さん。
「まだ日も出ているし、一旦家に帰りなさい。それで、身体を冷水で清めて、清潔な服に着替えてきてくれる? こっちはこっちで準備しておくからさ。Aちゃんの同級生ってことは、真面目なあの学校の生徒ってことなのだろうけど、お坊っちゃん、夜中に家、出てこられる?」
「平気です。それくらい」
「じゃ、夜中の零時ごろ、もういっぺんここに集合ってことで、いいかな」
「いいですけれど___清潔な服って?」
「新品じゃなくてもいいけれど__制服というのは、ちょっとまずいね。毎日着ているものだろう」
「……お礼は?」
「は?」
「とぼけないでください。ボランティアで助けてくれるというわけではないんでしょう?」
「ん。んん」
歌詞さんはそこで、私を見る。
まるで私を値踏みしているようだった。
「ま、その方がお坊っちゃんの気が楽だというなら、貰っておくことにしようか。じゃ、そうだね、十万円で」
「……十万円」
その金額を、相川は反復した。
「十万円__ですか」
「一ヶ月、二ヶ月、ファーストフードでバイトすれば手に入る額でしょ。妥当だと思うけれど」
「……私のときとは随分対応が違うな」
「そうだっけ? 委員長くんのときも、確か十万円だったと思うけれど」
「私のときは五百万だったって言ってんだよ!」
「吸血鬼だもん。仕方ないよ」
「何でもかんでも安易に吸血鬼のせいにするな! 私はそういう流行任せの風潮が大嫌いだ!」
「払える?」
思わず横槍を入れてしまった私を片手であしらうようにしながら、歌詞さんは、相川に問うた。
相川は、
「勿論」
と、言った。
「どんなことをしてでも、勿論」
そして__
そして、二時間後__今現在、だ。
相川の家。
もう一度__見回す。
十万円という金銭は、普通でも少ない額ではないが、相川にとっては、通常以上に、大金なのだろうと、そう考えされる、六畳一間だった。
衣装箪笥とちゃぶ台、小さな本棚の他には何も無い。濫読派のはずの相川にしては、本の冊数も少なめなので、その辺は恐らく、古書店や図書館で、うまくやりくりしているのだろう。
まるで昔の苦学生だ。
いや、実際、相川はそうなのだろう。
学校にも、奨学金で通っていると言っていた。
歌詞さんは、相川のことを、私より全然マシ__みたいな風に言っていたけれど、それはどうなのだろうと、思ってしまう。
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がむしろ(プロフ) - コメント失礼します!とても面白く、原作の化物語の通りに書かれていて、読んでいてとても楽しかったです! (2022年4月13日 23時) (レス) @page1 id: b2402acd1c (このIDを非表示/違反報告)
灰猫(プロフ) - ヒマリンさん» ヒマリンさんコメントありがとうございます!わざわざこの作品を見つけてくださり、そう言ってもらえて恐悦至極です!これからも原作通りに進められるよう頑張ります!! (2021年8月3日 19時) (レス) id: 75a262f2fa (このIDを非表示/違反報告)
ヒマリン - 本当に化物語の通りでした。 すごいです。 (2021年1月7日 10時) (レス) id: 88fe224ab8 (このIDを非表示/違反報告)
灰猫(プロフ) - うたねこさん» うたねこさん初めまして、感想ありがとうございます!どちらも好きな方がいらっしゃるとは…!? 緩やかですが楽しみにしていただけているのなら光栄です(*'∀`*) (2020年3月22日 22時) (レス) id: 06fe930ba8 (このIDを非表示/違反報告)
うたねこ(プロフ) - はじめまして!物語シリーズもまふさんも好きなのでめっちゃ嬉しいです。お話もこれからすごく楽しみです! (2020年3月22日 17時) (レス) id: f217387575 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:灰猫 | 作成日時:2020年3月20日 4時