16 ページ16
信ちゃんの車では音楽もテレビも流れてなかった。
から、タイヤが水溜まりの水を跳ねる音だけがする。
夜の闇を無理やり照らすようなきらびやかな装飾の店。
溶け込めていないネオンの看板。
3年間も見続けてきた景色は、もう生活の一部やった。
「ここか」
「うん。……階段錆びてるから足元気いつけて」
切れかけの街灯がチカチカと点滅する。
全体的に暗くて、生気を感じひんアパート。
信ちゃんは錆びて茶色に変色した階段を見て、うえっ、って顔をした。
カツンカツン、と音鳴らしながら階段を上がってすぐのところに俺の部屋がある。
鍵穴に鍵をさして回すとガチャンと大きく音が鳴った。
「お邪魔します」
「狭い部屋やけど……ゆっくりしてって」
信ちゃんが玄関で靴を脱いでいる間にリビングの電気を点ける。
ぼんやりと部屋全体を見回すと『俺の部屋ってこんなんやっけ』なんて思った。
そういえば最近あんま家に帰ってこうへんし、帰ってきてもそのまま寝室直行やもんな。
「生活感ないなぁ」
ソファとテーブル。
必要最低限の家具しか置いてへんし、ゴミ箱にだって全然ゴミが入ってへん。
「お前さ……」
信ちゃんが何を言おうとしてんのかは大体見当がつく。
でもその先は言って欲しくない。
それは自分だけが理解してればエエことで、他人に指摘される必要なんてないから。
「飯、食べよか」
信ちゃんがフッと笑って、リビングと繋がってる台所へ向かう。
「冷蔵庫、酒しか入ってへんで」
「だと思ったから予め持ってきてある」
信ちゃんはニヤリと笑ってコンビニの袋を机に置いた。
……いつの間に車内に持ち込んどったんやろ。
冷凍の焼き鳥を電子レンジに入れて、信ちゃんは勝手に冷蔵庫からビールを取り出した。
「とりあえず、飲んでからや」
そっと頭を撫でられて、缶ビールを渡されると何だか涙がでそうになった。
この人になら全部話せるんちゃうか。
店を通さずに客としてること。
すばる君のことが好きなこと。
誰にも言えなくて、墓場まで持ってこうと思ってたことを。
今、この人になら言える気がした。
「…あの、信ちゃん」
言いたいと思った時に言わなかったらタイミングを逃す。
店をクビになるかもしれへん、なんてその時はそこまで考えられへんかった。
おれが信ちゃんを呼んだ瞬間に、チーン！って音がする。
「お、エエ匂いやん」
部屋に充満する焼き鳥の匂いが憎くて堪らなかった。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 92人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
れいんと。(プロフ) - ヒイM45さん» はじめまして。私も一生、赤緑が担当です。赤緑作品は新作が少なく、更新が途絶えてるものが多いので寂しいですよね😢いつか甘々な赤緑を書きたいと思っています。 (2022年3月27日 8時) (
レス) id: e2762dc7c7 (このIDを非表示/違反報告)
ヒイM45(プロフ) - はじめまして。いつも更新を心待ちにしていた未練タラタラ赤緑強火です。素敵な作品をどうもありがとうございます。完結してしまった喪失感はありますが、また是非是非！貴重な赤緑作品をお願い致します🥺赤緑バンザイ！！そして橙緑も楽しませて頂きます♪ (2022年3月26日 22時) (レス) @page43 id: 0c2aba4953 (このIDを非表示/違反報告)
れいんと。(プロフ) - 羽世さん» ありがとうございます！私も強火すば倉担なんですけど、最近はすば倉担そのものが少なくなってる気がしてるんです〜😭ふっふっふ、ちょっとお待ちくだされ。 (2022年2月19日 16時) (レス) id: e2762dc7c7 (このIDを非表示/違反報告)
羽世 - んんん！最高です……。すば倉担なのですば倉の新作があって嬉しいです😢 次話からtornの予感もして楽しみです。更新待ってます！！ (2022年2月19日 16時) (レス) id: 5dae2b6d43 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
