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担当が丸山さんに戻るとチーフとはほぼ関わらなくなった。
同じ部署にいてこうまで絡まないことってあるやろうか、なんて思うけど本来はこれが普通なんかもしれへん。
仕事はいつも通りに取りかかるけど、覇気がないまま過ぎていく毎日はすごくゆっくりに感じた。
「大倉!」
「どうしたんですか」
ある朝、出社するなり丸山さんに駆け寄られた。
茶色っけのある紙がふわふわ揺れる。ホンマこの人 朝夕関係なく元気やな。
丸山さんは1枚の紙をヒラヒラ揺らしてみせる。
「それ、もしかして!」
「日本酒の広告、コンペ勝ち抜いたで!!!」
ビックリマークをめいっぱい付けたような笑顔に俺はふっと冷静になってまう。
「明日から早速会議あるからチーフと打合せしとき」
「はい!」
丸山さんから紙を受け取って、チーフがいる休憩室に行く。
ついさっきまで沈んでたくせに、単純な俺は浮き足立つ。
やって、あの広告が採用されたってことはチーフとまた関われるってことやん!
「おはようございます!」
「……おはよ」
目を合わせずに小さく呟くチーフはやっぱり俺を避けているんやろうか。
面倒くさそうに分かりやすく眉間にシワなんか寄せて。
それでもめげへんもん。
「あのっ」
「その広告、」
声が被った。
一瞬だけチーフが俺と目を合わせて気まずそうにしたけど、遠慮することなく言葉を紡ぐ。
「おめでとう。その広告、錦戸君に引き継ぐことにしたから。俺と錦戸君でする」
「え!」
何それ。意味分からん。
何で?俺の仕事ぶりが気に入らんとかやないやん、それ。
ただただ避けてるやん!
さっきから全然目を合わせようとせえへんチーフにフツフツと怒りが沸いてくる。
「どうして僕が外されたんですか?僕やってキャッチコピーもデザインも考えたんです、チーフがメインでしたけど!」
「じゃあ俺がマルに引き継いどく」
「どうしてですか」
「……。」
「どうしてチーフと僕が担当する、って選択肢はないんですか」
チーフは何か言葉を探すように宙空に視線を漂わせ、コーヒーを啜った。
しばらく無言が続く。
「僕、チーフに何かしました?……チーフが丸山さんのこと好きやって踏み込んで聞いてもうたから?……それはホンマにごめんなさい」
「……。」
チーフはやっぱり無言で何か迷ってるように、ぼんやりと壁に掛けられた絵画を眺めた。
「嘘やねん、それ」
「え?」
「俺、マルのこと恋愛的に好きとちゃう」
それは俺を無言にする程衝撃的やった。
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れいんと。(プロフ) - つらきさん» コメントありがとうございます!更新速度が遅くて申し訳ない…。んー、どうでしょ。その辺りにも触れていきたいと思っています笑 (2021年10月3日 9時) (レス) id: e2762dc7c7 (このIDを非表示/違反報告)
つらき(プロフ) - 大量更新ありがとうございます〜!!これからの展開が楽しみです。青さんが何を考えてるのか全然わからない笑 橙さんは少し緑のことが好きだったのかな、だから出勤してきたのかな、と考えを巡らせてます。更新頑張ってください! (2021年9月27日 11時) (レス) id: 5dae2b6d43 (このIDを非表示/違反報告)
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