【Fischer's】水魚之交 III【短編集】

モトキ：浮沈した心情 ページ37

モトキと付き合ってまだ三ヶ月しか経っていない。普通のカップルなら三ヶ月などあっという間に感じるのだろうし、熱も冷める事を知らない筈だ。
それなのに、

『わ、私もついて行っていい?』
「あぁまあ別にいいけど、静かにしててね」

モトキは最近、私に対してとても冷たい。

「どうもFischer'sシルクです!」
「ンダホ!」
「モトキでーす」

こんな事をすれば更に距離を取られてしまうのは理解しているのに、体すら離れていく事が嫌で動画撮影の現場、シルク君宅へお邪魔していた。

カメラ前のモトキは常に微笑で、時には大口を開けて大笑いする。私の前では決して見せた事のない破顔や声色に、来たのを後悔しそうになるくらい気持ちが沈んだ。

「じゃあまたねー」
「またねぇ〜」

撮り終えたのは日を跨いだ頃で、眠気眼だった目を擦ってモトキの後ろを着いて行った。おふざけ声でシルクに別れの挨拶をすると、シルクも同じように返す。そんな光景すら羨ましい。

『何か、楽しそうだったね』

帰りのタクシーを待つ間、会話が無い事が息苦しくて当たり障りのない言葉をかける。モトキはスマホから私へ視線を移すと、表情を変えず頷いた。

「まあ古い友人だからね」
『…うん』
「あのさA」

出会った年数が違い過ぎる。古い所では幼稚園や小学校から友達なのだ、ぽっと出且つ数ヶ月前に付き合ったばかりの私とでは雲泥の差だろう。視線を地面に落とすと今度はモトキから会話を投げかけた。

「俺達、付き合ってるのかな」
『…え?』

別れ話の雰囲気だったのはすぐに察した。モトキが冷たかったのは、私に気を引かせる程の魅力がなかったからなのだ。

「考えたんだけど、今の関係って動きにくくない?」
『そ、そう…かな』
「Aはどう思う?」

そんな事ない、と言える度胸などなく。これ以上嫌われないように肯定するしかなかった。

『私も、そう思うよ』
「あぁ良かった。ごめん気付くの遅くて」
『う、ううんいいよ…だって私が悪いんだもん』

離れたくないよ。言えなかった言葉を飲み込んだ時、脱力した手に温かいモトキの手が指を絡めて重なった。

『っえ…モト、キ?』
「今日は、歩いて帰ろっか」
『え?』
「どう接すればいいのか分からなかったけど、もっと素直になろうと思う」

「君が好きだよA。今更だけど、もう一度ちゃんと俺と付き合ってくれる?」
『…っはいぃ』

私に魅力があるのかまだ分からないけど、涙を袖で拭うモトキの愛は本物だ。

END

　

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