やさしさはシタゴコロ【黄】

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用を足しながらドキドキした気持ちを落ち着かせた。今日の亮さんはいつもと違う。あれか、女を落とすテクニックの練習台なのか。練習台にさせられているのか。そうだと思えば、今日の行動も納得がいく。きっとそうだ。


席に戻ると、亮さんは1人座っていて、タバコを吸っていた。戻ってきた私に気づくと、自分の右側を空けて、ぽんぽんととなりに座るよう促される。右側の方がタバコの煙が来にくいみたい。や、優しい。




亮「今から美幸さんやで」



「わ！ほんとだ！美幸さーん！♡」




美幸さんが最後に歌うみたい。他の席の人達はみんな私の前に歌い終えてたから、美幸さんが大トリだ。手を振ると、美幸さんも振り返してくれて、ゆったりとした前奏が流れ始めた。


ウイスキーの水割りを飲みながら、美幸さんの歌を聴く。亮さんの歌も素敵だったけど、同じくらい素敵。ほろ酔いでいい気分だし、最高だ。




「…っ！？ りょ、亮さん？///」


亮「…ん？」





何も意識せずに持て余していた左手。
ぎゅっと握られる感覚に、一気に意識が左手に集中する。握られた先を見ると、隣にいる人の右手…亮さんが、何食わぬ顔でそうしていた。




「や、手…、え？///」


亮「あかんの？」


「は？え、いや…///」




少し力を入れて手を引こうとすると、キュッと更に握られる。意識してるこっちがおかしいって思うくらいに平然と、あかんの？なんて言われて、なにも言い返せなかった。


そのあとは特に会話するでもなく、私は気持ちを落ち着かせるために右手にグラスを持ってお酒を煽り、亮さんは優雅に曲を聴きながら左手でタバコを吸っていた。お互いの右手と左手は、演奏が終わって美幸さんが席に戻ってくるまで、繋がれたままだった。

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