S P A R K L I N G !

Innocent boy 2. ページ9

.




そう言って、
私の前に差し出されたのは
お皿にきれいに乗せられた
苺のショートケーキ。


生クリームたっぷりのそのケーキに
慎は視線を落したまま、



『確か、ナナは苺が好きだったと思って』



と、確かめるように言った。



「…………っ、｣
(ちゃんと私の好きな物、覚えててくれた…)



てっきり忘れてると思っていたのに
予想外の事に嬉しくなって
ついつい口が緩むのを必死で堪えた。


こういう些細な言動の一つ一つが
私の心をぎゅっと掴んで離さないんだ。


改めてそう実感していると
もう一つのお皿をそっとテーブルに置いた
慎は嬉しそうに一口食べると
フォークを口にくわえたまま笑った。



『うわ、美味っ、これ…』


『ナナも一口食べてみる？』


「え、いいよ私は…｣



フォークで私を指さして
一人満足げに頷いてみせた慎に
苦笑いでそう言えば、



『ほら、良いから遠慮すんなって、"妹"だろ？』



とか、また嫌みを言ってにやりと笑いながら
今さっき自分が食べたフォークで
そのケーキを一口大に切り分けて
私に差し出した。



『はい、あーん』


「…ねぇっ、｣
(ちょっと嘘でしょ？)


『ほら、早くしろって…』



ずいっ、とフォークに突き刺したケーキを
私の口元まで運んできた慎。


私を急かすようにそう言って
強引に私の口へ放り込んだ。
慎の頼んだケーキはチョコレートケーキで、
ほんのり苦味があるのにそれでいて甘い。
そんな味だった。



「あっ、美味しい｣
(もう顔が熱い)


『だろ？』


「…っ、うん｣



口角を上げてにっこりと笑う。
慎のこの表情に私はとことん弱い。


計算なんか何もないつもりなんだろうけど、
その笑顔の破壊力に気付かないなんて
本当に慎は罪だと思う。


一気に熱を帯びて赤く染まる顔を隠すように
髪を指でそっと耳へかけながら
私もショートケーキに手を伸ばす。



「あ、こっちの苺のやつも美味しい！｣


『……………。』


「え、なに…？｣



大好きな苺のショートケーキを前に
つい笑みがこぼれて、
うきうきしながらフォークを持った私に
慎は何故か何も言わずに
ただ、じっと私を眺めていた。


その視線が気になって
思わず声に出してそう聞けば、



『あー、いや、ごめん…』


『何でもない』



明らかに何でもないようには見えない。
複雑な表情を浮かべながら
苦笑いでそう言った慎がやけに印象的だった。


さっきまであんなに楽しそうにしてたくせに、
やっぱり慎って気分屋だと思う。




.

Innocent boy 3.→←Innocent boy.

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す