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「後悔の呪縛」 ページ1




「結婚することになったの。」と、あいつは淀みなく俺にそう告げた。

何の迷いもない、幸せな未来を見据えた明るい声で。


「そうなんや。それは、おめでとう。」

なんとかそう返事をできた自分自身にほっとした。心底、ほっとした。

「そうなんや。」の「そ」と「う」の間が少し、不自然に空いてもうた気もするけど、あいつは気いつかへんかったやろう。

久しぶりに心のずっと奥に閉まっておいた思い出したくない箱の蓋を開けてしまったようで、

電話を切った後その苦さをしばらく噛みしめるようにソファに突っ伏して寝転んだ。


――俺はまだあいつの事が好きなんやろうか。


いや、そんなことはない。

確かにずっと昔から、物心ついた時からずっとあいつが隣におって、俺は知らず識らずのうちにあいつのことが好きやった。


そこから先は、ようあるやつや。


自分の想いには気づいてても元来俺はヘタレで、伝えてフラれた時に今まで通りそばにいられへんようなるのが怖くて、

そうなるくらいやったら想いを隠して幼馴染のままあいつにとって一番近い男でおった方が幸せなんちゃうかなって『幼馴染』という肩書きに完全に胡座をかいててん。



そしたら、高校にあがってすぐ、突然現れた奴にあいつは恋をした。

そん時になって焦ったって、もう全然遅くて。



強引なアプローチをしたって俺が散々に利用してきた『幼馴染』が邪魔して相手にされへんし、

最終的にちゃんと言おうと思ったけどあいつを困らせるのが嫌で――というのはただの言い訳で、

本当は自分がそれ以上傷つくのが怖くて、結局俺の長年の恋は水面に顔を出す前に静かに死んで底に沈んでいった。


ここまでが、大学に入学する時までの話。



あいつは大阪の大学に進学し、俺は上京し、離れたことによっていくらか忘れられたような気はしてたけど、

それでも思い出すと俺の胸は無数の細い針で刺されるような鈍い痛さに見舞われる。

あれから何人かの女の子とそれなりに恋はしたし、あれからずっとあいつに想いを寄せてたわけでもない。



それでもこんなに苦い気持ちになるのはきっと、

『あの時こうしていれば』という無数の後悔がずっと、胸に残ってるからなんやと思う。




あいつが結婚する。

あの時、あいつが恋をした相手と結婚する。




俺はいつの間にか、27歳になっていた。



。→



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蒼 夢見子(プロフ) - 茜音さん» 茜音様、初めまして。有難いお言葉に胸が熱くなりました…後先考えずにがむしゃらに書いてしまった荒すぎる出来の中でふたりの互いに想い合う気持ちは一番慎重に書いたのでそう言っていただけてとても嬉しいです!こちらこそ読んでくださりありがとうございました^^ (2018年11月10日 23時) (レス) id: d57fe18bd1 (このIDを非表示/違反報告)
茜音(プロフ) - はじめまして。あまりにも続きが気になって一気に読ませて頂きました。描写はもちろん、ヒロインと大倉くんのお互いを想う切実さが綺麗で、思わず息が詰まりました。とっても素敵なお話をありがとうございました。 (2018年11月9日 15時) (レス) id: c4843d23a9 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:蒼 夢見子 | 作成日時:2018年8月7日 18時

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