120. 虎杖side ページ20
虎杖side
開け放った扉の向こうには、驚いた顔でこちらを振り返る2人の姿があった。
注目されて心臓がバクバクと脈打つのが分かったけれど、あの時五条先生と話したことをAさんに伝えなくちゃいけないのは今だと全身が叫んでいた。
「っ、ごめん、盗み聞きして」
何から話せばいい。Aさんは俺が術式を知ってることさえ知らない。
驚いた顔の2人は何も言わずにこちらを見返している。
「俺、五条先生からAさんのこと聞いたんだ。それで」
Aさんの目が見開かれた。
その唇が何か言いたそうに動くのを無視して話し続ける。
「Aさんの術式のことずっと考えてた。…だって、大好きなナナミンが死んだ理由かもしれなかったから」
立ち上がっていた家入先生が腰を下ろした。
部屋を追い出されはしないようだと安心する。
「今全部、勘違いじゃないって分かったんだ。
先生…五条先生はAさんの術式は呪いじゃないって、救いなんだって、そう言ってる」
珍しく、Aさんが感情を剥き出しにして顔を顰めた。
こちらに一歩踏み出そうとするAさんの左手を家入先生が掴んで止める。
「俺、五条先生に聞くまでずっと不思議だったんだ。
ナナミンさ、これから死ぬのに、見たこともないくらい幸せそうな顔だったから」
『……分かったような口きかないで』
「…分かるよ。だって、そりゃAさんほどじゃないかもしれないけどさ、俺だって…俺だっていきなり宿儺の器だとか言われて、呪いと戦うことになって…
そんな中普通に接してくれた大人はナナミンくらいだった。俺にとっても大事な人だったよ」
感情の読めない栗色の瞳を見つめ返す。
「一緒にいた時間は短いよ。ナナミンにとって一番大事だったAさんの話を本人から聞いたことだってない。だけど分かる、あの時ナナミンは」
……いや、違う。
俺にだって分かるんだ。それならきっと
「……Aさんも分かってるんだろ」
あの時のナナミンの表情の、言葉の意味くらい、Aさんには伝わったはずだ。
「ナナミン嬉しかったんだよ、Aさんに会えて。
死ぬ時に1人じゃなかったことが、大好きな…自分が愛した人が自分を愛してくれてたんだって最期に知れたことが」
Aさんは何も言わない。
「Aさんが自信が持てないなら、ナナミンを知ってる俺が保証する。
Aさんがあそこに現れたことは、ナナミンにとって呪いじゃなくて救いだったよ」

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せつな - 悠さん» ありがとうございます!そういっていただけてとても嬉しいです…!忙しくぼちぼちの更新になってしまいますが、(結末は決めてあるので)しっかり完結まで書きたいと思います。コメント本当に励みになります。ありがとうございます (2023年10月26日 16時) (レス) id: bd2dec1bcd (このIDを非表示/違反報告)
悠 - 先程見つけまして、一気読みしました。とにかく号泣しました。お話も文章も天才だと思います。気長に更新楽しみにしてます。応援してます!! (2023年10月26日 3時) (レス) @page40 id: 7b564da341 (このIDを非表示/違反報告)
せつな - 清歌さん» ありがとうございます( ; ; )今年いっぱいかなりバタついていて中々更新が追いつかないかもしれないですが、頑張って書き上げます!よろしくお願いします。 (2023年10月15日 23時) (レス) id: 617609c1ea (このIDを非表示/違反報告)
清歌(プロフ) - 待ってました!!私生活と小説の両立は大変だと思いますが応援しています! (2023年10月15日 22時) (レス) @page7 id: d4a80062b6 (このIDを非表示/違反報告)
せつな - 舞さん» ありがとうございます!もうしばらくお待ちくださいませ (2023年10月11日 0時) (レス) id: 617609c1ea (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:せつな | 作成日時:2023年9月26日 21時