自分なりの。 ページ19
帰り支度を終え、鞄を肩にかければぐいっと引っ張られて。
声をかけることをしないのは何故か。振り向けば、やっぱり修也くんが居て。
音無さんからの視線が痛い。
「なんですか、豪炎寺さん」
じっと、目を見れば鞄から手が離れる。周りの視線に気付いたのか手を取り、急いで校門へと向かう。何も言わずに黙ってされるがままに、連れていかれれば。
しばらく無言で歩き続けて、河川敷への道へ差し掛かる。立ち止まった修也くんが振り返り、そっと、真剣な眼差しで見つめてくる。
イケメンの目力は強いな…。
「…この間の帰り…すまなかった」
素直な謝罪に思わずびっくりしてしまう。
何についての謝罪なのかは問いただしてみたい所なのですが、それはきっと、しない方がいいんだろうとは思う。
思う。
けど、それと乙女心は別物。
「どの辺について申し訳ないって思ってるのか…聞いてもいい?」
「ああ…」
河川敷の道を2人でゆっくり歩き出す。いつもみたいに並んでいても、歩幅1歩分空いた距離が寂しく感じてしまう。
「Aに確認をとってから鬼道を誘うべきだった」
「うん。そうしてくれてたら私もきっとあんな風に怒らなかったかな」
「怒りはするのか…?」
「んー、なんて言えばいいのかな」
もじもじと指を弄りながら言葉を探してみるけれど、修也くんみたいに丁寧ね言葉や沢山の言葉を知っているわけじゃないから説明が難しい。
考え込めば、修也くんは変わらない優しい笑顔で、
「お前のそのままの気持ちで、言葉でいい」
そう、言ってくれる。
腕を後ろで組んで、揺らしながらゆっくりと話してみれば真剣に聞いてくれるのがちゃんとわかった。
「元々ね、知らない人がとても怖いの。挨拶したら興味のない人、仲良くできるようなら良い人。そんな見方しか出来なくて…皆、最初は怖かったの」
入学式、突然名前を呼ばれて、久しぶりと眩い笑顔でサッカーやろうぜと話しかけてきた円堂くんも
そんな様子を見て、見かけて助け舟を出してくれた木野さんも
入部していた染岡くんも、半田くんも。
良い人、同じ部員として距離を詰めるのがとても、とても怖くて。
それでも底抜けに明るいサッカー馬鹿な円堂くんは、何度誰ですか?って聞いても自己紹介を繰り返してくれて。
退院しても、忘れないで声をかけにきてくれて。
新しく入ってくれた1年生も最初は怖かったけど、今は可愛い後輩。
でもね、
足を止めて、夕日に照らされた修也くんを見つめた。
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作者名:楸 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/hisagi/
作成日時:2022年8月3日 21時