第五十訓 ページ6
「じゃあ、私がその容器から出てきた時はさっきの子供の体のまま、自分は16くらいだと認識していたと? …幽閉されていたから自分の異常な成長速度に気づかなかったってこと…?」
何も無い…鏡すらない部屋では自分の成長に気づけなかったのだろう。
それを気の毒に思うと、一つの嫌な疑問が浮かんだ。おそるおそるAに問う。
「お前…2年と半年前の記憶はあるか?」
「記憶も何も…ほぼ毎日同じことの繰り返しだから…」
そう途中までAが答え、全員が気付いた。
あの男は、Aの体が3歳児ほどの頃から、信者達にAの体を触らせていたのだ。
──惨すぎる。怒りさえ湧いてくる。邪悪とはあの男のことを指すのだろう。
「…アイツは本当に人間ですかィ? とても同じ生き物だとは思いたくねェ」
吐き気がする。久遠天海という男を許してはならない。今すぐにあの不敵な笑みを崩さない男を、泣いて詫びさせるくらいに切り刻んでやりたいとも思った。
だが、感情に踊らされては奴の思うツボだ。ここは耐えるしかない。
「…というか、なんで今になって出頭したんですかィ」
「うーむ、それがよく分からんのだ」
何でも、最初運ばれた病院が怪しいと目をつけた俺の意見に皆同意し、土方さんが監察に潜入に行くよう指示したそうだ。
だが、潜入させた病院は件の最初に世話になった病院ではない。転院先の病院だという。
「今、Aちゃんはうちで預かってるけど、健康状態とか、精神面とかのデータを転院先の病院に定期的に送っているんだ」
「…隠していて悪いが、俺達は地下で見た光景から、お前が人間ではないとなんとなく察していた。だがお前自身己が人間ではないとは気付いていないようだった」
じゃああの時、俺がAを連れて帰ってきた時はさぞかし驚いたことだろう。
そのことについて今更ながら近藤さんに謝ると、近藤さんは「いやむしろそれで良かったんだ」と慌てて訂正する意外な返事が返ってきた。
「安心しな。お前を担当している医師はシロだ」
「怪しいのは、君が転院した後にこの病院勤務になった医者だよ」
その、Aが転院した後に勤務になった医者は
「蒲生は、お前の担当の医師──望月という男なんだが、望月とは特に交友関係を築いてなかった。だから最初は特に気にしてはいなかったんだが…」
80人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:ぽん酢ちゃん | 作成日時:2019年7月14日 19時