【１９３】side無し ページ7
この街はヒーローも含めて何処か可笑しい。そう神妙な面持ちで話す緑谷は不意に前方から人の気配を感じ、他の面々もそれに気付く様に立ち止まる。街灯の少ない裏通り、丁度彼女が印を付けた場所に差し掛かった時、五人の前に可愛らしいピクニックバスケットを持った女の子が現れたのだ。
「こんばんは、パトロールお疲れさまです。良かったらクッキーをどうぞ」
小学生くらいの小さな女の子。こんな時間帯の暗がりの路地で一人でクッキーを配るその姿は怪しいの一言に尽きたが、八百万は然りげ無く他の四人に目配せすると、差し出されるクッキーを「有難う御座いますわ」と、笑顔で受け取った。
「手作りですの？」
「はい。あの、美味しかったらまたここへ来て下さい。その時は買ってもらえるとうれしいです」
そう女の子が言った直後、緑谷と爆豪が全く同じタイミングで別々の曲がり角に瞬時に飛んで行き、突然の事に驚く女の子を自分の背に庇う様に周囲を警戒する八百万は「当たりでしたわね」と、緑谷と爆豪に確保された二人の男を見詰める。
「このガキ……！！」
「テメェ等が売人か？そこのガキ使ってヤベェ薬で金儲けしとんだろ！あﾞあﾞ！？」
峰田の個性で二人を接着させ、八百万が個性で出した縄で拘束した緑谷は女の子へ「もう大丈夫だよ」と、笑顔を向けるが、女の子は酷く顔を青ざめさせながら怯えていて、見兼ねた葉隠が「私達、ヒーローだよ？」と、声を掛ける。
「あ……ああ……」
「ねぇ、どうして君がこんなものを？」
「な、なんの事ですか……」
「惚けんじゃねぇ。ガキ、これが何か知ってんだよなァ！？」
「爆豪君！言い方！それじゃあどっちが敵(ヴィラン)か分からないよ！」
直ぐ様、警察に男達を引き取る様に連絡した面々はその間も酷く怯える女の子から話を聞こうと試みるが、女の子は泣き出してしまい、困り果てていたのだ。
数分後、一台のパトカーがやって来ると、中から気怠げに欠伸をしながら出て来た警官は「こんな時間に何かと思えば、例の雄英生か」と、溜め息を吐き出す。
そんな警官の態度に苛立ちを募らせる爆豪に緑谷は「かっちゃん」と、制止するが警官が男達を拘束していた縄を解き始めたので「ちょっと！何をしてるんですか！」と、流石に止めに入る。
「何って、君達こそ、何の罪で此奴等を拘束したんだい？」
「何って、薬の売人じゃないですか！」
「証拠は？」
「その人達のポケットから薬を押収してます」
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作者名：パル | 作成日時：2022年4月2日 23時
