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「って!しっかり逃げてんじゃねぇか!!」
その声にビクッを思わず肩を跳ね上がらせてしまうけれど、バタバタと窓へと駆け出す二人にそのまま携帯を何処かに置いてくれないだろうかと思いつつ様子を見ていると、一旦部屋の中に戻って来たカイ君は動かせなかったソファーの上に無造作に私の携帯と置くと「キオ、ちょっとこっち来て」と、再び窓の方へと向かって行く。
「はあ?今はそれよりあの子探す方が先だろ」
「良いから」
携帯を取り返すなら今しか無い。そう我ながら天才ではないだろうかと、音を立てない様にベッドの下から這い出て、軽く深呼吸をした後、一気にソファーへと駆け出した。けれど……
「あっ……!」
寝室を飛び出して直ぐに何かに足を引っ掛け盛大に転んでしまい、直ぐに立ち上がろうとした私の背中に「おはよ、Aちゃん」と、酷く上機嫌なカイ君の声が掛かった。
ビクッ!!と本日二回目となる肩を跳ね上がらせ、恐る恐る振り返ると、そこにはニッコリと微笑むカイ君と煙草に火を付け出すキオと呼ばれた青年が居て、カイ君は「怪我してない?」と、聞きながらも四つん這いになっている私の背に軽く腰を下ろしてくる。
「聞いたよー?フロントに電話掛けまくってたんだって?それで、良い脱出方法でも見付かった?」
「……見付けてたら、此処に居ないよ」
「だよね!まだ携帯も取り返せてないし」
弾む声が私の足掻きを楽しんでいる様で、直ぐそこに携帯があるにも関わらず、前へ進もうとするとカイ君はそれを阻む様にわざとらしく体重を掛けてくる。
「……色々頑張ったんだね。それで?携帯を取り返せたとして、どうやってこの部屋から出て行くつもりだったの?」
「それは……」
「Aちゃんがこの部屋から出て行くなら、動ける夜しかないよね?外に出た瞬間、また意識失っちゃうだろうし、後は太陽が出てない雨の日とか?」
カイ君は私の個性で翼が生える事をまだ知らない。恐らく、太陽の熱に敏感な個性とでも思っているのだろうか。もしそうなら、個性に関してあまり言わない方が良いだろう。誤魔化しも嘘も、きっと簡単に見破られてしまう。
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作者名:パル | 作成日時:2022年4月2日 23時