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―――誰かの話し声で目を覚ますと、そこはホテルの一室の様な広い部屋の中だった。大きなベッドに寝かされていた私は両手を一つに纏める様に結束バンドで拘束されていたのだ。
意識を失う前の事を思い出しながら身体を何とか起こし、今も尚部屋の外から聞こえて来るカイ君の声に物悲しさを覚える。誘拐とは少し違うのかも知れないけれど、カイ君が私を此処に連れて来た事は明白で、音を立てない様にベッドから下りて扉に耳を澄ます。
「今日はあの子が居るから俺は行かないけど、ヘマはしないでよね」
「分かってるって。それよか、あの子まだ寝てんのか?」
「うん、さっき見に行った時もぐっすりだったよ。余程、太陽の熱がダメみたいだね」
サポートアイテム使ってるくらいだし。と、私の事を話すカイ君の声色は私と接していた時よりも酷く落ち着いていて、一人称も俺と言っている辺り猫を被っていたのだろうと、於かれている現状に妙に納得出来てしまう。
此処は一体何処なのか。あれからどのくらい意識を失っていたのか。音を立てない様に扉から離れ、閉じられた真っ黒なカーテンを僅かに引いた時、そこに広がる光景に言葉を失う。
こんな状況で無ければ、綺麗だと心奪われていただろう美しい夜景が広がり、この街を一望出来る程に地上が遠くに見える。恐らく、リゾートホテルのスィートルームの様な部屋である事は確かで、大体丸一日意識を失っていた自分が情けなくなってくる。
個性を使えば、逃げる事は出来る……と、思いたい。けれど、ショルダーバッグも携帯も自分のお金では無く、お父さんのお金で買った物だ。それを取り返すのが先で、何もカイ君は私を殺そうと思っている訳では無いと、踵を返した時、ゆっくりと扉が開かれた。
「あ、起きてたんだ。身体は大丈夫?」
光を背に薄く微笑むカイ君はゆっくりとした歩調で私の元へとやって来る。何だか言い知れない不気味さがそこには確かにあって、思わず顔が引き攣ってしまうのが自分でも分かった。
ただただ不気味で、何を考えているのか分からない赤い瞳が酷く恐ろしい何かの様に錯覚してしまう。近付いてくるカイ君から距離を取る様に後退れば、カイ君は寂しそうに眉を下げながら「怒ってる……?」と、問い掛けてくる。
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作者名:パル | 作成日時:2022年4月2日 23時