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あまりの激痛に思わず「い゙っ……!!」と情けなくその場に蹲れば、彼女は容赦無くお尻を蹴って来て、体勢を崩した僕の胸倉を掴み上げた。至近距離で視線がかち合い、未だ眉を顰めたままの彼女は「一度しか言わないから、耳かっぽじって聞け」と言う。
「……どうあっても、今直ぐにお前のそれには応えてやれない。けど、二年後……ボクの執行猶予が終われば、一考してやらなくも無い」
「っ、それって……」
ゆっくりと僕の胸倉から手を離した彼女は面倒臭さそうに溜め息を吐き出すと「だから、その……それまでは、付き合ってやんよ」とそっぽを向く。
付き合ってやんよ……?付き合う?付き合うって、僕の勘違いでも聞き間違いでも無ければ、正式に交際出来るという事で、それはつまり、彼女は僕の恋人になってくれるって事……?
あまりにも衝撃的な彼女の申し出に嬉しい筈なのに言葉すら紡ぐ事が出来ず、その代わりに涙だけはボロボロと情けなく零れ落ちて、そんな僕をムスッとした顔で見る彼女は僕と視線を合わせる様にしゃがんでくれた。
「……何か言えっての」
彼女の顔が赤くなってる。怒ったり、泣いたりしてそうなってる訳じゃなくて、彼女が照れてる……?え、照れてる!?あの彼女が!?
「えっと……どうしよ。嬉し過ぎて、上手く頭が回らないんだ」
「あっそ」
「だって、三年も待ってて、君が応えてくれるだなんて思ってなくて、それに!君、一度だって僕の事好きとか言ってくれた事も無かっ……っ!?」
グイッと再び胸倉を掴まれ、引き寄せられたかと思えば、ゼロ距離に彼女の顔があって、唇が塞がれていたのだ。
こんな街中で、道端で、誰か見てるかも分からないのに、彼女はしてやったりと言わんばかりに意地の悪い笑みを浮かべていて、元から勝とうだなんて思ってはいなかったけれど、彼女には勝てないと改めて思い知らされてしまう。
「さてと、物件探し手伝ってくれるんだろ?」
「同棲しようよ。光熱費も家賃も僕が持つから」
「まぁ……良いけど、二年後にはド田舎に引っ越すからな」
「ええっ!?何でまた……」
僕の家に向かう道すがら彼女は人の少ない場所で、犯罪も少ない場所で静かに暮らしたいのだと話してくれた。そこには彼女なりの理由もちゃんとあって、七草昴として新しく自分を作り上げたいんだとか。
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パル(プロフ) - 夢桜さん» コメント有難う御座います!!亀更新にも関わらず更新を楽しみにして下さり、また夢主の暴言三昧を愛らしいと言って下さった上にまた読みに来て下さるだなんて、本当に感無量です!嬉しいお言葉の数々が今後の励みになります!本当に有難う御座いました! (2021年10月11日 21時) (レス) id: a050d7518b (このIDを非表示/違反報告)
夢桜(プロフ) - 完結おめでとうございます。いつ頃か更新を今か今かと楽しみにし続けていましたので少し寂しい気もしますが、デクの諦め悪い精神や夢主のボロッカスな口の悪さも愛らしく、とても読むのが楽しかったです!長い期間お疲れ様でした、終わっても尚、また読みに行きます。 (2021年10月11日 11時) (レス) @page31 id: 505f8e7c76 (このIDを非表示/違反報告)
パル(プロフ) - ゆいさん» コメント有難う御座います!!面白いと言って頂き、本当にそのお言葉が励みになります!残り僅かの更新にはなりますが、最後まで楽しんで頂ける様に頑張りたいと思います!今後ともこの作品をよろしくお願いします! (2021年9月17日 19時) (レス) id: a050d7518b (このIDを非表示/違反報告)
ゆい - 面白いです!応援してます! (2021年9月17日 10時) (レス) id: 8f748b15fe (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:パル | 作成日時:2021年9月16日 22時