明白で歴然で、それでいて隠微な『差異』 ページ26
〜竜胆side〜
「いっ!!!」
何かの衝撃を受けて痛みと共に目を覚ました。
すぐに辺りを見渡そうと顔を上げると、
「おはよう、お嬢さん。」
鉄格子越しに下賎な笑みを浮かべながら声を発したのは、初対面の蛙に似た天人だった。
その隣には黒い服を身に纏い、笠で顔の見えない男が錫杖を片手に立っており、二人とも天井の電光を背に私を見下ろしている。
二人に気を取られていたが、私の真横にもう一人男が立っていて、大きい麻の袋を適当に巻き上げると、すぐに牢から出て鍵を掛けた。
さっきの目を覚ました時の衝撃は、この男に袋から出されて地面に体を叩きつけられた時のものらしい。
「私を誰かと勘違いしていませんか、私はただの平凡な田舎娘です。」
心の内でひしめく恐怖を抑え込みながら、なんとか声を絞り出した。
身動きをとった瞬間ガチャリという重々しい金属音が響き、心臓が跳ねる。
案の定と言うべきか、黒々しい鎖が手足を拘束していた。
「そうだ、平凡な田舎娘、松下村塾とかいうしがない寺子屋で学を積む生徒の一人、そうだろう?」
「.......」
「でも、その生徒の中でも君は一つ特別だ。」
天人の含みのある言葉に、その先が全く読めない私は、それでもビリビリと伝わる緊迫した空気に固唾を飲んだ。
「君は吉田松陽という男と同じ宿で暮らしている、言わば娘のような存在であろう。他の生徒にとってはただの教師だろうが、君にとっては親そのものではないのかい?」
どくん、と巨大な鉛玉が心臓の底を貫いた。
呼吸が次第に浅くなり、無意識に息を殺していた。
「ま、男の子供もいたけど、女の君の方がか弱くて何かと都合がいいからね。」
その言葉に私は奥歯を噛み締めた。
先生を傍らに必死になって竹刀を振っていた、あの道場での日々が蘇る。
強くなったつもりでいたけど、
現実はやはり、いつだって理想とは程遠い。
(先生、私、結局傷一つつけられずに、あっけなく....捕まってしまいました....
あんなに熱心に、貴方に教えてもらったというのに.....一番強い銀時と、何度も手合いしてもらったというのに....)
"女だから"
目を背けていた現実が、今更になって痛感した。
いや、分かっていたから尚更、事が起こった今、無力を証明してしまった今、銀時達との間に大きな溝があることを実感した。
悔し涙の熱い雫が冷えた頬を何度も伝っては、縛られた手の皮膚に弾いた。
折り返しのない片道地獄船→←もう誰も知らない思い出、私だけの思い出
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紅狼 - とても良い作品でした!!続きがめちゃ気になります!!更新頑張ってください!応援してます!!!!!! (1月8日 1時) (レス) @page50 id: c1d0e4500e (このIDを非表示/違反報告)
yuki(プロフ) - ストーリーがすごく好きです!!続きが楽しみです。 (2023年3月30日 21時) (レス) id: 17169564a0 (このIDを非表示/違反報告)
らいあ - 言葉が出ないくらいすごい作品でした!!!続き楽しみにしています! (2022年1月14日 17時) (レス) id: 5ed45ad072 (このIDを非表示/違反報告)
常夏(プロフ) - この作品大好きです! (2021年2月5日 22時) (レス) id: 3853130063 (このIDを非表示/違反報告)
みっかぼーず(プロフ) - すごく面白かったです!!ストーリーが良く作り込まれていて尊敬します (2020年4月19日 0時) (レス) id: 90b29dc37c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:のと丸 | 作成日時:2019年10月1日 3時