第1話 ページ5
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それはある日常の1ページ。
何ら変わらない1日に訪れた変化。
父を亡くし、門弟を失い、崩壊直前の道場を再建夢見て生きてきた少年の日常。
竹刀以外はからっきしで、ただのドルオタと化した眼鏡はある一人の男と出会うことで世界が変わったように。
今日も、道場の清掃をすべく自宅へと足を運べば玄関に並べられた見知らぬブーツに首を傾げる。
ここ志村道場に訪れる客など、万事屋以外といえばあのゴリラストーカーのみ。
まさかゴリラが姉を口説くことを諦め、"なにか"に目覚めてしまったのかと。友人の座に収まろうと画策してのだろうかと一瞬の気の迷いはあったもののすぐにその思考は消し去る。
ゴリラにしてはこの靴のサイズは小さすぎる。
では誰が訪れているのか。
とりあえずは中へと入り、姉の元へと向かえばことは済むと。
いつもの言葉と共に、帰宅すれば"彼女"はそこにいた。
まるでそこにいることが日常であるかのように。
慣れ親しんだ隣人のように。
出された湯呑を手に、丁寧な所作でそれをいただく様は洗練されている。
だが、その姿はあまりに斬新。
漆黒の髪は高い位置でふたつに括られ、カールしたツインテールは軽やかに風に揺れる。
一度、視線を通わせた猫目の彼女の瞳はまるでガーネットのようで言葉を失うのも無理はない。
未だ"何の経験"もない少年には刺激が強すぎたのだろう。
紫紺のドレスは彼女を彩り、胸元のリボンがそれを一層彼女の美しさを引き立てていた。
「(これは一体どうなって…ていうか、あれってあれだよな。巷で今広がってるゴ、ゴ、ゴゴゴ、ゴスロリだよな?!!)………えっと、あの。そのあの」
正しい言葉がでてこない。
何度言葉を選ぼうと知恵を巡らそうとするも、テンションは馬鹿上げだ。
こんな男の夢と希望を載せたような女性を前にしてしまえば正常に頭が働くはずもない。
まあ、それ以前になにをすることも敵わず動揺してしまうあたり、全くもって少年が"あれ"であることを悲しくも証明してしまう結果となるわけだが。
にこりと涼やかに微笑んでみせる彼女を目にすれば即倒しそうになるのも無理はない。
むしろ、ひとことでも声をかけた自分を褒めてくれという心持なのだから。
「お邪魔してるよ。となると、君が新一くんか」
「だから、新八って言ってんでしょうがぁぁぁ!!このギャグ何回目だよ!!!!って、つい勢いで突っ込んじゃったよ?!!!」
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