【歌い手】出会いは偶然…だったよね？【浦島坂田船】

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それにしても……



千歳くんから送られてきた写真を見つめる。
やっぱり、見間違いじゃない…。

ラーメン屋で皆のマスクを取った時に、初めてその顔を見た。
いや、正確に言えば初めてではない、か…。

見間違えるはずがない。
つい数時間前まで彼らのライブを見ていたんだから。
さっきまで一緒にいた彼らは、私がずっと応援していた人達。


『浦島坂田船…』


ポツリと無意識に呟いていた。

ハッとして周りを見渡す。
もし、他のcrewさんがいたら大変なことになるかもしれない…。

しかし、周りには空席が目立ち、いる人といえばスーツを来た大人達だけ。
さっきの呟きは、どうやら聞こえていなかったらしく、私を見ている人は誰もいない。
そっと胸を撫で下ろし、スマホの画面に表示されているグループのトーク画面に視線を向ける。

そこに出ている彼らの名前。
恐らくこれは、彼らの本名なのだろう。

名前を教えてくれた時には、まだ浦島坂田船だと気づいていなかった。
でも彼らは…私がcrewだということに気づいていたはず。
どうして、教えてくれたんだろう…。
オマケに連絡先も教えてくれた。

彼らはとても親切にしてくれた。
彼らとの会話はとても楽しくて、笑いが絶えなかった。
私が浦島坂田船だと気づいた時、彼らは私が気づいたことを知っていたはず。
それなのに、私に対する態度を変えないでいてくれた。


どうして…？

どうして名前を教えてくれたの？
どうして連絡先を交換してくれたの？
どうして優しくしてくれたの？

もし、バレたら大変なことになるのに。
下手をしたら活動を続けることが出来なくなるかもしれないのに。


疑問に答えてくれる人なんて誰もいないのは分かっているのに、考えるのを辞めることは出来なかった。


もうすぐ降りる駅に着く。
きっと今の私はひどい顔をしている。
折角楽しい思い出を作ったのだから笑わないと。


…次会うことができた時、私は笑っていることが出来るだろうか。
彼らが浦島坂田船だということを気にせずに、普通に接することが出来るだろうか。


流れ続ける景色を見つめる私の頭の中には、悪い方向へと向かう思考が次から次へと思い浮かんでは消えていった。

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