【歌い手】出会いは偶然…だったよね？【浦島坂田船】

【9】 ページ17

ライブが終わった。
会場から出ようとする人の波に乗り、そのまま外に出ると、私は大きく深呼吸をした。


『はぁ…最高だったなぁ…』


余韻が全く抜けない状態で、駅に向かってゆっくりと歩き始める。

本当はもっと余韻に浸りたっていたいけど、本当なら私はここにいるはずでは無いからね…


というのも、私は今高校3年生。
世間一般では受験生と呼ばれる年齢だ。
普通であれば、この夏から勉強に本腰を入れるべきであるのだが…

私の住んでいる福岡に浦島坂田船がくる。
その知らせを聞いた私は、ライブに行くのを我慢することなんてできなかった。
母親に頼み込み、とりあえずチケットの申し込みだけでもさせて貰えるようにお願いした。
もしチケットが当たった場合は、ライブがある前日と当日以外はしっかりと勉強すること。
それを条件にチケットの申し込みをした。

結果、見事当選。
ライブ会場は自分の住んでいる地域より離れていたため、前日は会場の近くに住んでいる千鶴に一晩泊めてもらえるように頼んだ。
千鶴から二つ返事でOKを貰うと、その日から私は一生懸命勉強した。
その集中力はきっと、過去一だったと思う。


まぁ、そういった経緯を経て受験生であるはずの私はライブに参加した。
ライブに参加出来て、浦島坂田船に会うことが出来て、本当によかった。
お陰で受験までの期間、勉強もどうにかなる気がする。

そんなことを考えているとあっという間に駅に着いた。
コインロッカーにいれた荷物を取るために、鍵を入れた財布を探し持っていたバッグをあさる。


…あれ？財布が、ない。
え、嘘でしょ？だって、ちゃんとこの中に入れていたはず。


バッグの中を一生懸命探しても中にあるのは、スマホとその他必要最低限のもの。
グッズが入っている方の袋も一応探してみたが、あるのはペンライトとクジで当たったもののみ。

もしかして落とした？

その考えに至った途端、体中の熱が一気に下がった。
しかし、もし帰る途中で落としたのなら気がついているはず。
だとすれば落とした可能性があるのはライブ会場内。
ライブ中はステージに完全に集中していた為、落としたことに気が付かなかったのかも。

私は慌てて来た道を戻り、ライブ会場に向かう。
すれ違う人達が不思議そうに私を見ていたが、正直気にしていられない。

どうか、どうかありますように…！

【10】センラside→←【8】坂田side

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す