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「Aさ、今では俺のこと名前で呼ばないよな」
ふと、上鳴が口を開く。
私はそれに、そうだね、と返した。
小さい頃は名前で呼んでいたけど、今はもう無理だ。
思春期だ、名前で異性を呼び合うなんて、私はできない。それがたとえずっと一緒にいる幼馴染みでも。
……まあ、上鳴は私を名前呼びだけれども。
上鳴も、中学時は私を苗字で読んでいた。けど、雄英に入ってから何故かまた私を名前で呼び始めたのだ。
「むしろ、どうして上鳴は私のこと名前呼びなの?」
なんとはなしに、思ったことを聞いてみる。
すると、上鳴はぴた、と足を止め、次いで深くため息をこぼした。
「……何」
「いや、お前、……はあ……マジ鈍感だな……」
「は!?」
「だってさ、俺色々アプローチしてきたんだぜ?」
上鳴は、私に歩み寄ると、肩を掴んでくる。突然のことに、脳の処理が追い付かない。
「え、ちょ、ほんと何……え、どうしたの?
頭大丈夫?」
半笑いで声をかける。
けど、上鳴と目があって、思わずえ、と声をあげてしまう。
その顔が、何故だか赤く見えて、どきん、と心臓がうるさく跳ねた。
「もう待たねえ」
「は、」
「Aが好きだ」
その言葉と共に、ぎゅ、と抱き締められる。声があまりにも真剣で、幼馴染み同士のお遊びだ、おふさけだ、なんて終わらせられなかった。
「かみ、なり……」
「お前を名前で呼ぶのは、お前に意識されたかっただけ。まあ、無駄だったけど。
……あーあ、本当はもっとロマンチックにいきたかったんだけどな」
そう照れ臭そうに言う彼は、しかし必死な表情をしていた。上鳴は、「……返事は?」とそわそわしながら聞いてくる。
……確かに、全然ロマンチックじゃなかったし、その場に空気に流された、というか、なげやりになってた感はあったけど。
「……別にいーけど」
「え……え、マジで!?」
上鳴はぱっと顔を輝かせる。それがあまりにも幼く見えて、くす、と笑ってしまった。
「ちゃんと私を好きにさせてね」
「おう!」
「……あ、他の子に声かけたら刺すから」
「……え?」
「できるだけ恥ずかしいカッコで刺し殺すから」
「……え」
「ガチにしないでよ、冗談」
ちゃんとそう言えば、上鳴は安心したようにため息をつく。
可笑しくて、思わず笑う。
＿＿＿＿ちゃんと素直に嬉しかった、っ言えるまで、待っててね。
2019/9/22 硝子屋
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作者名：風を薙ぐ硝子売り x他1人 | 作者ホームページ：
作成日時：2019年9月16日 23時
