捌 ページ16
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「退け」
『嫌です』
「お前では敵わん」
『かもしれませんね』
「怪我をしている」
『煉獄さんの方が酷いでしょ』
「犬死だぞ!」
『そんなことは解っていますよ!!』
でも、ここで貴方を行かせてはいけない。
そんな気がするんですよ。
こういう時のボクの勘は鋭く良く当たる。
だからこそ譲れない。
渋る煉獄にボクは牽制するように怒鳴りつけると地面に弟の刀を突き刺した。
「妙な気配のする女。確かにお前も強い部類に入るだろう。
だがな所詮は女。
男に、ましてや鬼の俺になど勝てん」
俺は鬼になった杏寿郎と戦いたいんだ!
もはや戦闘狂の匂いを漂わせるこの鬼に呆れさえ感じる。
何が奴をここまで駆り立てるのか。
今はそれを気にする余裕はない。
突き刺した刀から手を離すと己の腰にある愛刀へと移す。
『残念。ボクはただの女じゃないよ。
ボクは……』
ふと炭治郎の顔が頭をよぎって言葉が詰まる。
恐怖し嫌悪する顔が。
これを言えば、もう……
『ボクは……………鬼だ』
そう、静かに告げ刀を抜いた。
……もう、後には戻れない。
誰かの息を飲む音がボクの心を刺激する。
「鬼、だと?」
『正確には鬼舞辻無惨とは違う鬼、だけどね』
鬼舞辻の名前を出された途端、奴の顔が青ざめた。
「手負いに虚勢を加えるとは、愚かだな!」
己があの方と同列だと?
傷も治せぬ鬼など存在せぬわ!
動揺を罵声で隠そうとしている。
まぁ、いきなり言われて信じるわけないよね。ボクの気配が人間と違うことに気づいているだろうに。
『手負い?……なら
治せばいい』
信じないなら見せればいい。
深く息を吸って吐く。
患部に集中すると熱を帯び再生し始めた。
呼応するように髪は色が抜けたような白色に、目は金色へと変化していく。
ボクは、もう隠すことを止めた。
たとえそれで嫌われようと恐れられようと、守れればそれで良い。
ボクはゆっくりと刀を構え直した。
『さあ、お望み通り鬼で戦おうか』
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