弟、誕生 ページ3
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あれから一年が経った。
この一年見ていた父は家でずっとぐうたらしていた。
いわゆるニートね。
たまに出かけたと思ったら他者の血と呪力残穢を匂わせて帰ってくる。
良い仕事じゃないことはわかった。
母さんもなんとなく分かっていた。
けれど嫌な顔せず彼を迎え入れ“普通”に接している。
これほど“普通”がすごいと思ったことはない。
そんな母さんの腕の中には、赤ん坊がすやすやと寝息を立てていた。
私が覗こうと上を見上げると、察した母さんは優しい笑顔で屈み その子を見せてくれる。
まつ毛 長っ
『おかあさん、この子の名前は?』
分かっているけどここで私が呼ぶわけにはいけない。
問いかけた母の視線は、1歩後ろから物珍しげに覗き込んでくる父へと流れた。
「名前は?」
決めてるんでしょ?
問われた父は一度 目を泳がせながらボソリと呟く。
「【
「恵?」
復唱する母の言葉に意を決した父はこちらに歩み寄る。
「“ 恵まれた人生にしろよ ”ってことだよ」
深い意味はねぇ。
「なぁに?私との出会いは恵まれてないっての?」
「んなわけねぇだろ ばぁか」
照れ隠しなのか、私の頭をガシガシとかき混ぜてくる。
ちょっと痛い。
ふと感じた気配に扉の方へ目を向けた。
気配は既に消えていて、視線を戻すと母が幸せそうに恵を見つめている。
「おい」
乗った手はそのままに、かけられた声に反応して上を見上げた。
「オマエ、持ってんだろ」
何を、とは言わない。
きっとこれは恵のことにも気づいているな。
私は無言で頷くと、そうか。ポンポンと頭を軽く叩かれる。
ぎこちなさの中に、少しの優しさを感じた。
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