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『成瀬Aちゃん、お前も知っているんだろう』
それを知らされたのは本当に急にだ。
ある日の夕食の時間に、父親の口からピンポイントにその名前が発せられた。
あの大きな病院で、ありとあらゆる人を診ている父親にだ。
俺は忽ち変な汗をかいた。
『他の先生が、紫耀と仲良くしてたって言っていたから。』
紫「...その子がどうかしたの?」
『随分と元気そうにみえるだろ』
見える、いや見えた。
あの夏休み中だって彼女は元気に振舞っていたし、彼女に再会したあの日だって彼女の様子に変化なんてなかった。
『よく頑張っているよ。』
その言葉は遠回しに彼女にはまだ病が残っているという言い方だ。
血の気が引いた。目の前が真っ暗になった。
明るく笑って楽しそうにしている彼女の未来を何度も何度も想像していた。
その、勝手に虚偽していた世界が一気に動転する。
それから父親から彼女の話を全て聞いた。
初めて腫瘍が見つかったのがあの夏。
直ぐに治療をして、それは直ぐによくなったという。
暫くの入院の内、彼女にもう一つ大きな腫瘍があることがわかったそうだ。
一度の治療をするだけで、まだ幼い少女の身体には負担でしかないのにもう一度治療をするとなると難しいというのが父親の話だった。
こんなことってあるのだろうか。
いや、現に彼女はそれを経験しているんだからきっとある話なんだろうけれど。
それは信じがたい事実であった。
一人、部屋に戻りベットにダイブした。
『もってあと数年。いつ症状が大きくなるかわからない。彼女はそれを背負って毎日生きていく。』
父親の言葉を何度も何度もリピートした。
どうして、どうして彼女なんだ。
何か彼女が悪い事をしたか?
立て続けに腫瘍が見つかるなんて、そんな話あるものか。
彼女も彼女だと思った。
何を隠そう、一番辛いのは彼女ではないか。
それなのにどうして。
どうして俺の気をかけたりどうしてあんなに屈託もない笑顔で過ごしていられるんだ。
幾らでも浮かんだ。
彼女のことなら幾らでも。
本当におかしな話だ。あの病院で偶々出会っただけの少女に、こんなに思い入れをしてしまった。
救いたい。
俺はただそう思うのだ。
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作者名:ふる | 作者ホームページ:http://twitter.com/ei_njo
作成日時:2017年10月7日 15時